なぜマイナーチェンジを実行するのか
主な目的はコスト低減だ。ボディパネルまで刷新するフルモデルチェンジには、高額な費用を要するため、マイナーチェンジに抑える。
開発関連の費用を低減する背景には、複数の事情がある。
まず先行開発に伴う投資が増えたことだ。電動化技術を含めた環境性能の向上、安全装備や自動運転技術の開発には多額のコストが必要で、車両の開発費用は削らねばならない。
また、以前に比べると、日本車を販売する国と地域が増えて、車種数も増加した。
これらの理由から、4~6年周期のフルモデルチェンジは困難になり、発売から7年を経過した車種にマイナーチェンジを実施することも増えた。
その一方で、以前に比べるとフルモデルチェンジの必要性が薄れ、マイナーチェンジで済むようになった事情もある。
最も分かりやすいのは、最近はデザインの進化が穏やかになったことだ。
1980年代までは、デザインが急速に進化する過程にあったので、フルモデルチェンジを行うと外観も格段にカッコ良くなった。
ところが今は違う。デザインが安定成長期に入り、フォレスター、インプレッサ、CX-5、N-BOX、ハスラーなど、先代型と現行型を見比べても大きな違いはない。
軽自動車やミニバンは、日本向けのカテゴリーでもあるからフルモデルチェンジを行ってもボディを拡大できない。
車内の広さが重視されるため、ピラー(柱)とウインドウは寝かせられない。ウインドウの位置や形状も、視界に支障が生じないようにデザインすると、ほとんど変えられない。
そうなるとボディサイズや基本的なデザインは自ずから決まり、変更の自由度がある程度認められるのはフロントマスクだ。
そのためにアルファード&ヴェルファイアなどは、フルモデルチェンジしてもボディの基本デザインはあまり変わらないが、フロントマスクだけはマイナーチェンジを含めて頻繁に変えている。
特に現行アルファードでは、2018年1月のマイナーチェンジで実施したフロントマスクの変更がユーザーから歓迎された。
発売して3年後のマイナーチェンジでありながら、2018年の登録台数は前年の139%に達している。
そのために2017年までは、姉妹車のヴェルファイアがアルファードよりも多く売れたが、2018年以降は逆転した。この販売上乗せの効果も、フルモデルチェンジに匹敵する。
外観デザインと同様、車内の広さ、動力性能、走行安定性、乗り心地といった各種性能の進化が安定期に入ったことも、マイナーチェンジが増えた理由だ。
加速力などの動力性能は、最高出力や最大トルクを含めて、もはや必要とされる上限に達した。そのために進化の焦点が、燃費や排出ガスのクリーン性能に移っている。
走行安定性と乗り心地は今でも進化しているが、1980年代から2000年頃のように、フルモデルチェンジで格段に向上することはない。
当たり前の話だが、車内の広さ、走行性能、燃費などは無限に向上を続けることはできず、やがて安定期に入る。
以前よりもプラットフォームの解析能力が高まった
プラットフォームなどの解析能力が高まったことも、フルモデルチェンジの周期が伸びた理由だ。
以前に比べると、プラットフォームを刷新しなくても、効果的な補強や先進の溶接/接着技術によってボディ剛性やサスペンションの取り付け剛性を向上できるようになった。
開発者の多くは「使い慣れたプラットフォームでは、何をやると、どのような効果が得られるのか、ほとんどすべてを把握できている」と述べる。
逆に「新開発されたプラットフォームで造られた最初の車種では、使い切れていない面が残ることもある。そこをマイナーチェンジなどで改善していく」というコメントも聞かれる。
開発者の話を総合すると、プラットフォームは畑のようなものらしい。開墾した直後はねらった通りの成果が得られないが、いろいろな作物(車種)を育てる過程で改良を加えていくと、優れた商品が育つ土壌に熟成される。
そして何をやると、どのような効果が得られるのか、すべて把握できた状態に至るわけだ。そして今では、マイナーチェンジでも熟成を進めることが可能になった。
このほかフルモデルチェンジが売れ行きに与える影響が変化した事情もある。
昔はフルモデルチェンジすると売れ行きが増えて、その後は下がるが、マイナーチェンジで再び少し盛り返し、下がったところで改めてフルモデルチェンジを行った。
しかし今は違う。販売ランキングの上位車種は、いつも顔ぶれが同じだ。軽自動車のN-BOX、タント、スペーシア。
小型車のアクア、ノート、フィット、シエンタなどは、発売から次期型にフルモデルチェンジされるまで、何年間も高い人気を安定して保つ。逆に不人気車は、発売直後から伸び悩む。
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