■なぜ欧州の新型マイクラを日本導入しないのか?
日産は、近年手薄な印象を与えた国内市場への配慮を強める姿勢を打ち出している。先般発売された軽自動車のデイズとルークスも、GT‐Rの開発に関わった技術者を実験担当者に加えるなどして、高い水準の軽自動車を実現した。
一方で、情報がほとんどないのがマーチの後継についてだ。海外では、マイクラの車名で販売され、すでに欧州では2017年にモデルチェンジを受け5代目となっている。
主要諸元を見てみると、車幅が1.7mを超える3ナンバー車となっており、国内のコンパクトカーに期待される5ナンバー枠を超えている。動力はエンジンのみで、変速機はマニュアルシフトを基本とする。あとからCVTが追加された。この商品性は日本には合いにくい。
トヨタのヤリスも、ホンダのフィットも、基本は5ナンバー車だ。カローラやシビックは3ナンバー車となったが、コンパクトカーでは5ナンバーを死守しなければならない。この点で、すでに欧州で販売されているマイクラは日本の消費者の選択肢から外れるだろう。
動力についても、日本ではハイブリッド車への期待が高い。ヤリスのHVとガソリンエンジン比率は約45:55(発売1か月後の3月時点)で、フィットのHVとガソリンエンジン比率は約7:3(発売1か月後の3月時点)だ。日産の次のコンパクトカーにはe-POWER搭載が不可欠だ。
5ナンバー枠とHVの準備ができれば、日産にも当然コンパクトカーは必要といえる。実際、マーチからティーダへ乗り換えた知人は、ワゴン的なノートでは嫌だといって乗り換える車種がないと嘆く
永年日産車を愛好してきたその人も、トヨタのアクアにしようかなどといいだしている。日産車の車種構成に、まだ隙間があるのは事実だ。
現在の内田社長になって、日産は中期計画で、C/Dセグメント、電動化、スポーツカーに力を注ぐとしているが、コンパクトカーも、キックス(3ナンバー車ではあるが)投入だけでは車種構成がまだ物足りないといえそうだ。
■キックス&マーチもタイ生産で“品質”に懸念はない?
最後に、タイ工場での生産についてである。キックスもマーチも、タイ工場で生産されている。現行マーチについては、2010年に新車発表された際に、品質について不十分ではないかとの評価もあった。
しかし、今回試乗したキックスの仕上がりからすれば、もはや生産工場がどこであるかはあまり問題のない時代になってきていると感じる。
かつて、メルセデスベンツがCクラスの生産をドイツのシュツットガルトから南アフリカの工場へ切り替えたことがあった。
その際、南アフリカ製のCクラスの品質がどうであるか、懸念する声が出たことがある。
これに対する答えは、「南アフリカの工場はダイムラー社の中でも最新の設備を備え、逆にシュツットガルトの工場は老朽化しており、Cクラスの品質への懸念は当てはまらない」とのことであった。
e-POWERを採用する日本とタイ向けキックスの生産にあたって日産は、日本の向上と同等の設備をタイ工場へ新たに導入し、加えて、品質を高めるためクオリティゲート(生産ラインの途中の工程ごとに品質を検査する手法)の運用をはじめている。
グローバルカーという言葉が、1990年代から世界へ広がり、それは世界に通じる新車開発や商品という意味であったが、世界共通の性能や品質を備えたグローバルカーを世界のあらゆる市場へ持ち込むためには、各地域の工場の生産体制に差があってはならない。
いまや、生産工場は自動化も進み、国内で完成車検査問題が起こった際も、法令順守という点で問題はあっても、品質に課題があったり、欠陥があったりしたわけではない。
そして完成車検査という法規のない海外で、問題なく新車が生産され、販売されてきているのである。
クルマ自体の商品性に関しても、新興国市場でも経済がかつてないほど成長を遂げており、商品の品質に対する視線はより厳しくなってきているはずだ。
日産も、新興国向けのブランドとして2013年に再び立ち上げたDATSUNから撤退を決めている。
もはや生産工場がどの地域であるか、何処の国であるかは問えない時代になっている。
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