■販売店も悩む差別化 どのように個性を感じさせるのか
そこで販売店にMX-30について尋ねると、以下のような返答だった。
「MX-30に関して、2020年8月上旬時点で詳細な内容をメーカーから聞いていない。発売時期も2020年秋という漠然としたものだ。MX-30のボディサイズはCX-30と同等で、エンジンも2Lマイルドハイブリッドが中心になる。売り分けるのは難しいが、従来の魂動デザインには独特の個性がある」
「お客様によって好き嫌いが分かれるが、MX-30の外観は、CX-30とは印象がかなり違う。観音開きのドアも備わり、CX-30やCX-3が馴染みにくいお客様に適するかも知れない」
今後の展開として、マツダはMX-30を皮切りに、新しいシリーズを構築するのだろう。今のマツダ車は、先代CX-5以降、外観がどれも似ている。マツダのホームページにアクセスして「カーラインナップ」の一覧を見ると、CX-3/CX-30/CX-5/CX-8の外観はどれもソックリだ。
ここまでクルマ造りが硬直化すると、マツダファンはすべてのマツダ車を受け入れても、そうでない人には全部拒絶されてしまう。その結果、今のマツダの国内販売は伸び悩み「魂動デザイン+スカイアクティブ技術」の採用を開始した2012年以前の台数に届いていない。マツダは走行関連から安全面まで、優れた技術力を備えるのに、主にコンセプトとデザインに基づいて好調な売れ行きに結び付いていない。
この問題を解決するには、もうひとつの新しいシリーズを用意するのが効果的だ。その出発点がMX-30になる。2012年の時点で2つのシリーズをそろえたら、マツダのイメージが曖昧になったが、魂動デザインが浸透した今なら両立できる。
現在用意されるマツダ2/3/6と、SUVのCXシリーズ、ロードスターは、すべて従来の魂動デザインに基づく。チーターなどの野性動物が獲物を追いかける時の生命感、躍動感がモチーフで、サイドウィンドウの下端を後ろ側に向けて持ち上げた。前輪駆動車でも後ろ足を蹴り上げるイメージで、ドライバーとの一体感に重点を置いた走りも表現されている。
■将来的にはコンパクトカー構想も… 今後どう変わるか? マツダのデザイン戦略
設計の新しいマツダ3やCX-30は、ドアパネルに周囲の風景がダイナミックに映り込んでインパクトも強いが、先に述べた通り見る人によって好き嫌いが激しい。特にフォルクスワーゲンパサートのような控え目な外観が好きな人にとって、魂動デザインの「俺のクルマ凄いだろ!」といわんばかりの表現は鼻に付く。
そして今のマツダが「プレマシー」のようなミニバン、「ベリーサ」のような背の高いコンパクトカーを手掛けないことから分かるように、魂動デザインは背の高いクルマとは相性が悪い。SUVが限界で、開発できる車種のカテゴリーも限られる。実際、今のマツダ車では、8車種中4車種がSUVだ。ほかは背の低いセダン/ワゴン/5ドアハッチバック/クーペで構成される。
そこでマツダの開発者やデザイナーに尋ねると、観点の違い話を聞けた。
「今のマツダ車にミニバンやハイトワゴン(背の高いコンパクトカー)は用意されないが、後者は検討を行っている。新しい(魂動デザインとは違う)造形についても同様だ」
MX-30の外観は、ボディサイズがほぼ同じCX-30と比べて、水平基調に仕上げた。ボンネットを長く見せる意図はCX-30ほど強くない。ボディ側面のウネリや映り込みも抑えた。一度CX-30のような造形に踏み込んだ上で、抑制を利かせて一歩引いたのがMX-30だ。
そのためにMX-30は、CX-30に比べてシンプルなのに、退屈には感じない。CX-30は人に例えれば元気の良い若年層で、経験を積んで落ち着いた世代がMX-30とも表現できる。
現時点では魂動デザインのCXシリーズにMX-30が加わったように見えて中途半端だが、今後はMXが独立したシリーズに発展するだろう。そこには従来の魂動デザインでは実現できなかった背の高いコンパクトカーなど、空間効率の優れた車種も含まれる。シート表皮などにも、柔軟で伸縮性の優れた素材が使われ、従来の魂動デザインとは異なるリラックスできる雰囲気を身に付ける。
2002年に発売された2代目デミオには、「スーパーコージー」と呼ばれるグレードがあった。明るいベージュの内装にホワイトウッド調ステアリングホイールを備え、オプションのホワイトキャンバストップを装着する。トップを閉じても、適度に明るい光が車内に入った。
「心地よい空間だから、ゆっくりと走り、目的地までの時間を長く満喫したい」。デミオのスーパーコージーは、このような気持ちにさせるクルマだった。速さを重視する魂動デザインの対極ともいえるだろう。
MX-30を出発点に、このようなラインナップが築かれたら、マツダは新しい世代を迎えるに違いない。不安を感じさせるコロナ禍やあおり運転が問題になる今、リラックスできる世界観のクルマが求められているからだ。ちなみにマツダの開発者には「実は以前デミオ スーパーコージーに乗っていた」というファンも少なくない。アンチマツダも納得させる、新しいマツダ車が誕生するだろう。
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