発売7年目で販売も苦戦気味。それでもレクサスはなぜ小型セダン「IS」を存続させる?
2020年6月、新型の投入を予告したレクサスのスポーツセダン「IS」。現行型のモデルライフも7年目に突入しただけに、フルモデルチェンジが期待された。
しかし、今回はビックマイナーチェンジに留まった。なぜ大掛かりなマイナーチェンジを行ってまで「IS」を残すのか。現行型ISに試乗すると、そこには想定していた以上の「狙い」が感じられた。レクサスにとってISの存在は重要な意義を持っている?
文:大音安弘/写真:TOYOTA、ベストカー編集部
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■レクサスISは小型セダンの「ラストサムライ」だ!

かつてコンパクトFRセダンといえば、マークIIやスカイラインなどの名車に代表されるように、花形の車種のひとつであった。
しかし、昨今のセダン市場の低迷とスペース効率に優れるFFセダンの台頭により、国産FRセダンそのものが激減。多くの車種を揃えるトヨタでさえ、今やクラウン以上の選択しかなく、日産も大型化したスカイラインが最小クラスに。
事実上、国内コンパクトFRセダンは、レクサスISのみといっていい。
そんな現行型ISのボディサイズは、全長4680×1810×全高1430mmと、従来の感覚からすれば、コンパクトとは言い難い。それでもライバルとなる輸入FRセダンのメルセデスベンツ CクラスやBMW 3シリーズよりも小さいのだ。
現時点でCクラスは、ISに近いサイズを維持しているが、次期型の開発も進んでおり、これまでの傾向を踏まえると、3シリーズ同様にサイズアップする可能性が高い。
だからといって、ISの未来が明るいものとはいえないのも現実だ。
2020年6月の国内での月販台数は、わずか52台。2019年の国内販売総数も年間で2050台に過ぎない。もっとも2019年のレクサスの世界販売台数の中でも、ISの占める割合は、たった4%ほどなのだ。
長年、レクサスセダンの中核を担ってきたGSさえ、リストラされるご時世なのに、ISが生き残れたことさえ、奇跡といっても過言ではない。
■色あせないISの魅力 「一体感とサイズ感は貴重な財産」

それでもISを残す理由を探るべく、現行型ISのフラッグシップスポーツに相当する「IS350Fスポーツ」に試乗した。
ちょっと癖のあるスピンドルグリルのスタイリングも、肥大化した最新モデルと比べれると、シャープに映る。2800mmのロングホイールベースのため、前後のオーバーハングも短く、視覚的にもコンパクトさが強調されている。
ISのコクピットは、シンプルに言えばアナログ的。もちろん、それは悪い意味ではない。ドライバーを包み込むようにデザインすることで、適度なタイトさによるクルマとの一体感を演出。全ての操作系をドライバーそばに集約し、クルマの見切りも良いので、運転もし易い。
デザインの好みは分かれるが、直線的なダッシュボードも車両感覚の掴みやすさに貢献する。まさに運転に集中しやすい環境なのだ。もちろん、後席だって、FF車のように広々とはいかないが、充分なスペースを確保する。

走りの要となるエンジンは、今や希少な自然吸気仕様の3.5LのV6DOHCを搭載。すでに同エンジンを採用するトヨタ車はなく、レクサスでも、この「IS」とクーペの「RC」のみに限定される。
その実力は、最高出力318ps/6600rpm、最大トルク380Nm/4800rpmとパワフルだ。このV6、回転フィールも滑らかで、レスポンスの良さも魅力。まさに知る人ぞ知る隠れたスポーツエンジンでもある。
走らせると、ドライバーとISとの一体感はより強くなる。ステアリングと駆動輪が分離されることで、クルマの挙動もナチュラルに感じられ、キビキビした走りが楽しめる。やはり日本の道路事情だと、やはりこの程度のサイズが扱いやすい。
特徴となる大排気量のV6エンジンは、クルーザーのような落ち着いた巡行も得意だが、ひとたび鞭を入れれば、力強い加速共に自然吸気特有の高揚感あるエンジンの伸びとサウンドが味わえる。同じFRセダンの「GS」でも、ここまでの刺激と一体感は得られない。
クルマの作りとしては古さを感じる面もあるが、そのキャラクターは、まさに日本人が憧れたドイツのスポーツセダンの強く意識させるものだ。ただライバルを含め、上級セダンの肥大化が進む今、この一世代前のサイズ感も、「IS」の貴重な財産であると感じられた。
■今のレクサスにこそISが必要だ

世界のプレミアムコンパクト全体を見渡しても、エントリーやコンパクトクラスは、FF車が主流だ。レクサスでも、FRセダン「GS」の守備をFFセダン「ES」がカバーしたように、FF化の流れも当然考えられる。
しかし、高級車の基本となるセダンこそ、エントリークラスが担う役目は大きい。メルセデスベンツやBMWもエントリーモデルをFF化し、エントリーセダンや4ドアクーペを備える一方で、伝統的な上級モデルの入り口となるCクラスや3シリーズは、未だFRレイアウトに固執する。
これはメーカー自身が、ヒエラルキーを含め、まだまだFRレイアウトの優位性が大きいと考えるからだ。“ジャーマン3”(ベンツ、BMW、アウディ)のひとつであるアウディは、FFベースを基本とするが、上級モデルでは縦置きレイアウトを採用する。
つまり、明確な差別化の一線が存在するのである。それゆえ、レクサスがプレミアムであるためには、対抗馬となるISの存在が不可欠なのだ。
■走りに重きを置くレクサスにとってISの存在は大きい

ISが受け継がれたもう一つの理由は、フラッグシップクーペLCに象徴させる新世代レクサスが、走りにも重点を置いたことが挙げられる。
今のレクサスならば、大型車でも走り良いモデルを生み出すことも容易だろう。しかし、純粋な走りの魅力を追求するならば、一体感や操る喜びを感じやすい小型車こそ有利だ。
走りの魅力を語りながら、それを訴求できるモデルがないというのは、全く説得力に欠けるではないか。
しかも、米国の高級車ユーザーにも、熱心なコンパクトセダンファンがいることは、米国発信で新型ISのワールドプレミアを実施したことからも明らかだ。
数字だけでなく、ISには、ブランドの未来を担う重要な役割があるのだ。恐らく、この新型ISの大掛かりな改良は、豊田章男社長の拘りだったのではないだろうか。
■次期型はどうなる? ISが目指す未来とは

オンライン発表会の内容からも、新型ISが単なる化粧直しではなく、現行型の完成形を目指して本気で開発を行ったことが伺える。
最大の目玉は、ニュルでの開発経験をフィードバックした新試験施設「トヨタテクニカルセンター下山」の新テストコース開発一号車にISを選んだことだろう。単に宣伝効果でいえば、オールニューモデルの方が最適といえる。
それならば、フルモデルチェンジだったのではとの声もあるだろうが、それはレクサス自身も感じているところだろう。なぜならば、トヨタのDNGAプラットフォームには、ISに最適といえるFRプラットフォームも持たないからだ。
姉妹車となるべき、マークXもリストラされてしまった今、ニーズの縮小するセダンに専用プラットフォームを用意するのは難しい。そこで大幅なブラッシュアップを決断したのだろう。
しかし、近い将来、少なくとも5年後あたりには、次のシフトがやってくる。それがFRとは限らないだろう。
近年、トヨタが4WD開発に注力していることからも、CTと基本を共有化した4WDスポーツセダンという可能性もあるだろうし、電動化戦略によりモーターを使った後輪駆動のEVに仕立ててくるかもしれない。
いずれにせよ、実用的なサイズであるISクラスのモデルが消滅することはないだろう。ただ、ISが最後のピュアFRスポーツセダンとなる可能性は充分にあるため、FRファンなら、今のうちに乗っておきたい一台だ。