新車の車内に入ると感じる、あの独特な匂い=新車臭が、実は近年大幅に減少?
独特なものである「新車の匂い」は、当然ながら新車を買った人だけが味わえるもの。しかし、実は「新車の匂い」に対する認識が、ここ10年ほどで大きく変わっている。
本稿では、そんな変わりつつある「新車の匂い」について掘り下げて考えていきたい。
文/永田恵一
トップ写真/corosukechan3-Stock.Adobe
写真/トヨタ、ホンダ、日産、MAZDA、VOLVO、RENAULT
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そもそも独特な「新車臭」はなぜ発生する?
新車の匂いが発生する理由は大きく3つだ。
ひとつ目は、クルマのインテリアを組み立てる際に使われる接着剤や、ゴムなどに含まれているVOCと呼ばれる揮発性有機化合物(常温で蒸発しやすい有機化合物)だ。
2つ目は、シートの中身などとなるウレタンを生産する際に触媒として使われるアミンや、ウレタンのシワや縮みを防止するために使われるホルムアルデヒドというウレタンに関係にするもの。
3つ目は、革シートなどの革インテリアのクルマだと、車種による違いも大きいにせよ、革の匂いだ。
この3つのミックス度合いによって、新車の匂いのタイプや強さが決まる。新車の匂いは各々の感じ方もあるにせよ、革インテリアとなることも多いイタリアやフランス車が強いという意見をよく聞いたように感じる。
実は近年「新車の匂い」が弱くなっている?
「よく聞いた」と書いたのは、筆者は職業柄、生産からすぐ新車登録され、自動車メーカーが自動車メディアにデモカーとして用意する広報車両に毎週のように乗る。
その際、新車登録から1か月以内など、新車の匂いがする可能性があるクルマに乗ることが多々ある。
しかし、本稿の執筆を機に改めて考えてみると「これだけ新しいクルマに乗っていても、最近は『いかにも新車の匂いがするクルマ』は記憶にない」ということを思い出した。
実際、つい先日も一般ユーザーが購入した新車登録されたばかりのトヨタの新車に同乗し、「この記事の参考に」と気にしてみたのだが、新車独特の匂いはほとんど感じられなかった。
こうした体験を念頭に、新車の匂いに対する世の中の認識を調べてみると、意外な方向となっていることが分かった。
「新車の匂い」は薄くなっている!?
前述した新車の匂いは、ケミカル(化学的に合成したもの)なだけに、好きな人は好き、気にしない人は気にしない、嫌いな人は嫌いと、好みが分かれる。
しかし、新車の匂いの原因となるVOCやホルムアルデヒドといった化学物質の成分は、新築の住宅などでこれらが原因で倦怠感、頭痛、めまいなどの症状が出るシックハウス症候群の原因に共通するところがある。
そのため新車に乗ったことが原因でこれらの症状が出る人もおり、シックカー症候群という症状、言葉があるくらいなのだ。
こうした事情もあり、自動車メーカーや部品メーカーは、クルマのインテリアの生産時に使われる接着剤などの成分の濃度を薄くする、無害なものにするといった努力をしている。
代表的な例を挙げると、ボルボは10年以上前から生産の際に無害な化学物質を使い、クルマが解錠されている際には自動で車内を換気するシステムを装備している。
また、ウレタンを自動車メーカーに供給する東ソーでは2013年にVOCの発生をゼロにしたアミン系環境対応型ウレタン発泡触媒を開発し、2014年あたりから供給が始まっている。
こうした背景や、自動車メーカーと部品メーカーの動きを見ると、新車の匂いが薄くなっているのも当然の話だ。
なお、新車の匂いはクルマを使ってきた歴史が比較的短いためなのか、中国や韓国といったアジア圏で嫌われる傾向が強いようだ。
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かつて「新車の匂い」は新車の証のような、好意的な意味で使われたが、近年はあまりよくないものとなっている。
これは「有害だった昔のクルマの排気ガスは、(ガソリンの質や精製が現代と違ったことも含め)いい匂いがした」と言う人がいるのと、似たところがあるのかもしれない。
もちろん、クルマから出る有害なものが少しでも減るのは大歓迎なのだが、一部の人だけだとしても新車の匂いという“お楽しみ”のようなものがなくなることには、時代の流れとはいえ一抹の寂しさを感じるのも事実だ。
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