バイクは70歳から! 生きていることを実感するために走る、元内科医

■生を実感するために、リスクをマネジメントしたい

 「クライミングもバイクも、リスキーな趣味です。でも、そこがいい。私は、“死にたい”なんて思っていない」と松本さん。

 「むしろ逆です。リスクマネジメントすることで、生きていることを実感したいんです。どうせいつかは死んでしまいますからね(笑)。それなら、生きている時間を有効に使いたい。私の場合、“それがアドレナリンが噴き出るような行為”、なんでしょうね」

 「バイクに乗れるのは、女房のおかげ。感謝しています」と松本さんは言う。

 「ただ家にいるだけだと、どうも私はシュンとしているようなんです。それなら好きなことをやってくれた方がいい、と言ってくれる。たぶん理解はしていないでしょう(笑)。でも黙認してくれている。バイクに乗りに行く時も、快く送り出してくれるのが本当にありがたい」

 生を実感するために、リスクマネジメントができるバイクに乗る。理解者である奥さんの手前もあり、決して無茶や無謀をしたいわけではない。だから松本さんはライディングスキルを高めるために、最良と思われる方法を選んだ。

 元MotoGPライダー、青木宣篤さんが行っている完全マンツーマンのプライベートレッスン、「アオキ・ファクトリー・コーチング」に参加したのだ。免許取り立てで「レーシングライダーのコーチをサーキットで受けよう」とはずいぶんな飛躍にも思えるが、必ずしもそうではない。

 「クライミングでも、いいガイドさんについてもらいました。目的、目標を見つけた時に、もっとも適した先生を見極める眼力が自分にはあるんじゃないかな、と思っています。

 人づてで青木さんをご紹介いただいた時、『教習所では1本橋が苦手でした』と言ったら、青木さんの返事は『僕も苦手です!』(笑)。世界的に有名なレーシングライダーなのになんて率直なんだろう、と。信頼できる人だな、と思いました」

 「自分はアマチュア。信頼できるプロの教えには100%従う」と松本さん。青木さんの後ろについて袖ヶ浦フォレストレースウェイを走る姿は、やる気に満ちている。しかも、ビギナーとは思えないほど、バイクという乗り物の基本をしっかり理解した走りだ。

 おかしなことを一切していない。妙な怯えもない。すんなりとCBR250RRを操っている。とてもではないが、数ヶ月前に初めてバイクに乗った71歳には見えない。

■年齢に追いつかれたくない。だから頑張る

 「理系の方だからか、松本さんはまずとことん調べ上げるんです。バイクに関する知識量はものすごくて、すでに僕よりあるかもしれない(笑)。しかも持っている知識が的確で、どれも正しいんですよ。もともと物理学がお好きだったそうなので、すごく理知的に物事を捉えているんです」と青木さん。

 松本さんはCBR250RRについて、「非常に旋回性が高いバイク。電子制御スロットルのリアクションは実にリニアですね。反応が適切だから、ブリッピングしやすい。もっとも、クイックシフターのシフトダウンは優秀で、私より上手なぐらいですけどね(笑)」

 「スーパースポーツのスタイルをしていますが、そこは250cc並列2気筒。いくらでもアクセルを開けられます」とインプレッションを語る。モーターサイクルジャーナリスト顔負けの鋭さで、猛勉強の跡が窺える。

 「私が思うように体を動かせるのは、せいぜいあと10年でしょう。その間にやれるだけのことをやりたい」と、いくらか急いている節もある。

 サーキット走行中も、前を走る青木さんにグウッと接近するシーンが何度かあった。アクセルを開けたくて仕方がない気持ちがあふれているのだ。だが、青木さんはそれを抑える。ゆっくりと、じっくりと、本当に少しずつペースを上げていく。

 「いくら松本さんの知識が豊富でも、何しろ免許を取られたばかりですからね。バイクで走っている時間──経験値は圧倒的に少ないんです」と青木さん。

 「今はあまり考えすぎずに、少しでも多くバイクに触れて、慣れてもらう段階。スピードを出したい気持ちは分かりますが(笑)、僕と同じラインを通ってもらうことを意識してもらっています」

 バイクでサーキットを走るにあたって、走るべきラインをきちんと通ることは非常に重要だ。スリムなバイクに対してサーキットのコース幅はかなり広く見えるが、正しいラインは非常に狭い。

 しかも「ライン」という名称ではあっても、単純な2次元の線を指しているのではない。

 コーナー手前でブレーキをかけ始めること、コーナーに向けて車体を倒し込むこと、コーナー出口に向けて車体を起こしていくこと、そしてアクセルを開けることなど、さまざまな動作や操作が正しいタイミング、正しい量、正しい速度で遂行されなければ、正しいラインを通ることはできない。

 簡単なようで、簡単ではないのだ。

 実際、松本さんは、前を行く青木さんのラインを完璧にトレースはできていなかった。スピードを出すだけではなく、的確にスピードを落とすことも学んでいかなければならない。

 「頭の中ではうまく行ってるんだけど、現実には無理(笑)。難しいものですね。でも、易しいことならすぐに飽きてしまう。ライディングは難しくて奥深い。完成することがなさそうですよ、永遠に。だから楽しくて仕方がないんです」

 サーキットを走りながら、少しずつスピードを上げる。それにつれて、ブレーキをかけた時に体にかかる重みが増す。アドレナリンが噴出する。リスクが高まっていることも、当然、体で感じている。

 それをコントロールできた時、「生きている!」と実感できる。そして、残された時間が少しずつ減っていることも──。

 「体幹を中心に体を鍛えるトレーニングを重ねていますが、年齢との追いかけっこですよ。今はまだ年齢に負けていないけれど、いつか追い越される時が来るでしょう。その日を、1日でも遅らせたい」。

 年齢に抗いながら、若い心を保ち続けようとする松本さん。こういう熱い魂の持ち主のために、バイクという乗り物はある。

【画像ギャラリー】七十にして矩をこえずとはまさにこのこと! 生の実感を得るために、70歳の元内科医はバイクに跨った!!

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