2010~2015年頃、登録車ではアクアやフィット、プリウス、軽自動車ではミライースやアルトエコなど、過激な燃費競争が繰り広げられていた。なかには燃料タンク容量を減らし、装備を簡素化してまで軽量化することによって燃費を稼ぐ、燃費スペシャル車が販売されていた。
しかし、こうした燃費競争によって生まれたカタログ燃費(JC08モード燃費)と実際に走行した、いわゆる実燃費との乖離が大きな問題となった。
例えば2013年に登場した先代フィットのCMコピーは「リッター36.4km/L、低燃費NO.1、フィット3」というものだったが、この燃費を実現したベーシックグレードは、このグレードのみ受注生産で、アルミボンネットが採用され、燃料タンク容量をほかのグレードよりも8L少ない32Lに抑えられていた。
しかし、新型フィットの燃料タンク容量は全車40Lで統一されている。TV・CMコピーも「人が心地いいならクルマは嬉しい」とされ、燃費は訴求されていない。その当時の状況を2020年に登場した新型フィットの開発責任者に尋ねると、「当時、燃費NO.1を謳わなければ売れない時代だった。しかし、ユーザーにとって、はたしてメリットはあるのかと社内で議論があった」と答えている。
現在では、燃費表示がJC08モードからWLTCモード燃費の移行期ということもあるかもしれないが、昔ほど、ユーザーの燃費への意識が薄らぎ、いつの頃からかメーカー間でも燃費競争が影を潜めているようにも見える。
はたして、異常ともいえるほどの燃費至上主義はもう終わったのか、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が徹底解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部 ベストカーweb編集部 トヨタ 日産 ホンダ
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不毛な燃費競争は終わったのか?
先ごろフルモデルチェンジを受けたノートe-POWERには、いわゆる「燃費スペシャル」と呼ばれるグレードが設定されている。2WDのFがそれで、燃料タンク容量を4L減らして32Lにすることで、数値上の軽量化を行った(燃料タンク本体の重量は変わらない)。遮音材なども省かれ、車両重量は30kg軽くしている。
Fではメーカーオプションの設定も大幅に削られ、安全装備の後側方車両検知警報やSOSコール、運転支援機能のプロパイロット、インテリジェントキーなどは装着できない。Fはこのように各種の機能やオプション設定を省き、WLTCモード燃費を29.5km/Lとした。ただしXやSも28.4km/Lだから、Fは1.1km/Lしか向上していない。
ノートFのような燃費スペシャルは、ライバル車に対抗して用意されることが多い。フィットe:HEV(ハイブリッド)のWLTCモード燃費を見ると、e:HEVベーシックが29.4km/Lだ。つまりノートは、フィットの数値を0.1km/Lでも上まわりたかった。
それでもヤリスハイブリッドになると、最も数値の低いハイブリッドZでも35.4km/Lだ。最良のハイブリッドXは36.0km/Lに達する。ノートFは、フィットの燃費数値はギリギリで上まわることができたが、ヤリスハイブリッドには太刀打ちできない。
このような燃費スペシャルに存在価値はあるのか。ノートの開発者に尋ねると「Fは軽量で環境性能をアピールできるグレードとして用意した。ただし(売れ行き次第では)廃止されるかもしれない」と返答された。
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