過去の燃費スペシャル車は?
燃費スペシャルは、過去にも数多く設定されている。例えば2016年に先代ノートがe-POWERを加えた時は、e-POWER Sが燃費スペシャルだった。この内容は徹底しており、衝突被害軽減ブレーキに加えて、エアコンまで省いた。しかもオプションでも装着できない。「マニュアルヒーター」が装着されるだけであった。
先代ノートe-POWER SのJC08モード燃費は、e-POWER Xやe-POWERメダリストの34.0km/Lに対して37.2km/Lだ。
この燃費数値は、当時のアクアに対抗していた。アクアは売れ筋グレードも含めて、JC08モード燃費は37km/Lで、ノートe-POWERとしてはこれに勝る数値を示したかった。アクアは実用装備を充実させて37.0km/Lだから、エアコンまで省いた先代ノートe-POWER Sとは異なるが、とにかく数値で勝つことにこだわった。
ちなみにこの時点で、現行プリウスも燃費スペシャルのEを用意しており、JC08モード燃費は40.8km/Lに達していた。ノートe-POWER Sが37.2km/Lをマークしても、1位にはなれなかったが、ライバル車のアクアには負けたくなかったのだ。
アクアについても、2011年の発売時点ではLが燃費スペシャルであった。改良前のJC08モード燃費は35.4km/Lにとどまったが、併記された古い10・15モード燃費は、SとGが37.0km/L、Lは40km/Lの大台に乗せていた。この時点でJC08モード燃費が40.8km/Lの現行プリウスは登場しておらず、アクアの40.0km/Lは大々的にアピールされた。
軽自動車にも設定されていた燃費スペシャル車
このほかにも当時は燃費スペシャルが多かった。2011年に先代アルトに設定されたエコは、JC08モード燃費が30.2km/L、10・15モード燃費は32.0km/Lと表記された。軽自動車の燃費NO.1であったが、エンジンルーム周辺の骨格、内装、遮音材など、さまざまな部分を軽量化した。
燃料タンク容量は、ほかのグレードが30Lだったのに、アルトエコは20Lまで減らしている。タンクの軽量化は行わず、単純に間仕切りを設けて容量を抑え、数値上の軽量化を図った。
しかもタイヤの指定空気圧は、転がり抵抗を減らす目的で300kPaと極端に高く、乗り心地もきわめて粗い。カーブを少し速度を高めて曲がると、旋回軌跡を拡大させるのではなく、後輪が外側に横滑りを始めるクセの強い動きも見せた。
実燃費とカタログ燃費との乖離が大きな問題に
こういったユーザーメリットの乏しい燃費スペシャルが生まれた背景には、一連のエコカー減税があった。2008年に発生したリーマンショックにより、国内販売が低迷したのを受けて、エコカー減税や補助金が手厚くなった。
ただしエコカー減税率を決める燃費基準は、車両重量と燃費数値の関係のみで単純に決まるから、燃費数値が0.1km/L違っただけでも購入時に収める自動車取得税(現在の環境性能割)や自動車重量税が影響を受けてしまう。
要は燃費数値が良くなれば、燃料代だけでなく税金まで安くなるため、ユーザーが燃費数値に神経質になるのも当然だった。その結果、販売店からは「エコカー減税に該当しないクルマは、購入の候補に入れてもらえない」「燃費数値がライバル車に比べて0.5km/L負けたら、売れ行きに影響する」といった話が聞かれた。
特に軽自動車は、燃費競争が激しかった。2010~2014年頃には、マイナーチェンジの度に、燃費数値を0.2~1km/Lの範囲で小刻みに向上させている。つまり燃費競争や燃費スペシャルは、政府主導のエコカー減税、一時のエコカー補助金によって作られた一種のブームであった。
燃費スペシャルは、競争の激しい売れ筋車種に設定されるから、価格の割安感も重要だ。従って燃費数値の向上により価格が割高になることはなかったが、軽量化を目的に遮音材などは省かれてしまう。ノイズが大きく、転がり抵抗を抑えたタイヤで乗り心地も悪化しやすい。ユーザーにとって選ぶ価値の乏しい商品になっていた。
特にユーザーから厳しく指摘されたのは、燃費数値と実用燃費の隔たりだ。「JC08モード燃費に魅力を感じて購入したのに、実際の燃費はまったく届かない」というもの。燃費数値で税金まで変わり、ユーザーも高い関心を寄せるから、エンジンやATの設定も実際の燃費よりJC08モードの計測結果を重視していた。
しかも計測に際しては「黄金の右足」を持つ各メーカーのスペシャリストが、超絶的に優れた燃費数値をたたき出す。これがカタログなどに記載され、ユーザーも参考にしてクルマを購入したから、文句が生じて当たり前であった。
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