■軽トラEVはすでに登場し、そして消えていた
実は最近まで、軽トラックのEVとして、三菱から「ミニキャブMiEVトラック」が販売されており(2012年12月~2017年5月)、軽トラEVを知るには、このクルマがベンチマークとなる。
ミニキャブMiEVトラックは、i-MiEVの技術を活用したピュアEVであり、搭載するバッテリー容量は10.5kWh、約100kmの走行が可能であった。
モーター出力は41ps/20kgf・m、ガソリンエンジン(50ps/6.4kgf・m)よりも倍以上もトルクがあり、軽トラの積載上限である350kgを積み込んでも、なんら問題はないだろう。軽トラの使われ方を考えれば、長距離を走れる性能は必要なく、約100km程度の走行距離があれば十分だ。
また、排ガスが出ないため、農作物や海産物といった商品へのダメージもない。市場を動き回るターレーほどには小回りは効かないが、そのまま公道も走れる軽トラEVの機動力は重宝されるだろう。給油の手間も不要で、自宅用充電器を備えれば、電気料金の安い夜間充電もこなせる。
軽トラックを普段使いされる方は、戸建てを所有する方が多いはずだ。価格さえ安ければ、軽トラEVは悪くないどころか、軽トラの用途にマッチしている。価格さえ安ければ。
■軽トラは「価格がすべて」
ミニキャブMiEVトラックのデビュー時の価格は、税抜176万9524円と、2WDの軽トラックにしては超高額。
ちなみに、途中で税抜153万3000円(マイナス24万円)への価格改定があったものの、ダイハツのハイゼットトラック(2WD 4AT)は税抜86万円、スズキキャリイ(2WD 3AT)が税抜85万8000円であった。
ガソリンの軽トラと比べて約2倍もある価格差は、どうにも受け入れられることはなかったようで、販売台数が伸びずに、2017年5月に生産終了となっている。
軽トラは、小売りを生業にしているユーザーにとっては、必要不可欠のモビリティだ。そして、とても消耗が激しいクルマだ。荷物や農機具をそのまま乗せることができる反面、剥き出しの荷台は傷だらけになり、結果、錆も発生しやすい。
また、畑や山を登るため、足回りも痛みやすく、また積載量が増えるとタイヤの摩耗も激しい。筆者の実家にあった軽トラも、常に泥だらけで錆びだらけだった。そのため、買い替えサイクルもわりと早かった。
買い替えサイクルの早い軽トラの車両価格の高さは、ユーザーの利益を圧迫してしまう。軽トラは、わずかでもコストを下げるため、この令和の時代に、エアコンレスやパワステレスの仕様が、新車で売られているクルマだ。
近年は、安全装置の類(ABS、エアバッグ)の装着が義務化されているために、必然的に車両価格は上昇傾向にあり、ユーザーにとっては厳しい状況となっている。
安いガソリン仕様が売られているのに、あえて2倍も高い軽トラEVを選ぶのは、よほど環境コンシャスな方か、農協のような組織がまとめて購入するような場合でなければ、ありえない。
■クルマの使われ方を加味するべき
軽トラは、昔は大手の自動車メーカーも自社でつくっていたが、第一次産業従事者の減少もあり、現在はほぼOEM化されてしまい、いま軽トラをつくっているのはスズキとダイハツのみだ。
もし、軽トラのEV化を推進するのであれば、たっぷりとした補助金と、税金免除などの手厚いバックアップがなければ、軽トラユーザーにいる、第一次産業従事者を守ることはできない。
これは、ハイブリッド車でも同じことだ。バッテリーがない分、ハイブリッド車はピュアEVよりは多少安くはなるものの、ガソリン車と比べれば断然高いことには変わりない。
自動車メーカー側も、燃費改良(排ガス低減)の努力は続けないとならない。未だにJC08モードで燃費を表示しているようでは、環境先進国として、諸外国へメンツが立たない。より効率を追求した、軽トラック向けの次世代環境対応エンジンが作れるはずだ。
コメント
コメントの使い方