日産がかなり力を入れて開発した『新型ノート』の4WDシステム。リアモーターの容量も大きく、これまでの生活四駆とは違う走りを可能にするとしている。
しかし、4WDが欲しいのは「ノート」じゃない! と思っていると思っている読者も多いのではないだろうか。そう、現在バックオーダーも多く抱え、受注は好調のコンパクトSUV『キックス』にこそ4WDシステムが搭載するべきだと。
人気が出そうなのになぜ採用しないのか? 最新のe-POWERでないとこのシステムに対応していないから? それとも海外がメイン市場の「キックス」は4WDが求めれてないから採算が合わないと考えたのか? キックスに4WDが採用されないワケを考察していきたい。
文/渡辺陽一郎
写真/NISSAN、編集部
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■キックスに4WDがないのは選択と集中によるものだった!
コンパクトカーの日産『ノート』は、ハイブリッドのe-POWERに前輪駆動の2WDのみを組み合わせて発売されたが、そのあとに4WDも加えた。ボディの後部に最高出力が68馬力、最大トルクは10.2kgmに達するモーターを搭載して、後輪を駆動する仕組みだ。そのために駆動力を後輪へ伝えるプロペラシャフトは装着されない。
ノートの後輪を駆動するモーターは、前輪側と同様、減速エネルギーを使って回生による発電を行う機能も備える。減速時には4輪で発電して、リチウムイオン電池に充電するから効率が高い。
特に滑りやすい雪上では、4輪で回生すると、前輪のみの時に比べて効率が大幅に高まる。ハイブリッド車に、後輪をモーターで駆動する4WDを組み合わせると、走行安定性だけでなく燃費でもメリットを得られるわけだ。ハイブリッドと後輪のモーター駆動による4WDは、親和性の高いメカニズムとなる。
ところがキックスは、e-POWERのみを搭載するSUVなのに、4WDを用意していない。キックスはSUVだから最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)にも170mmの余裕を持たせた。4WDが必要なのは、ノートよりもキックスだろう。それなのに、なぜキックスには4WDがないのか?
キックスが採用する「Vプラットフォーム」は、現行マーチから使われ始めたタイプで、基本的には4WDを成立させにくい形状だ。それでも先代ノートe-POWERは、Vプラットフォームを使いながら、現行型と同じく後輪にモーターを搭載する4WDを追加した。先代ノートe-POWERにモーター駆動の4WDが用意された以上、同じプラットフォームを使うキックスでも技術的には可能だろう。
それなのに4WDを用意しないのは、キックスが効率を重視するからだ。キックスは販売目標台数を公表していないが、タイで生産される輸入車だから、日本国内で膨大な台数を売ることは難しい。そこでパワーユニットはe-POWERのみ、駆動方式も海外と同じ2WDに限定して、グレードも実質的に「X」の1種類に絞り込んだ。
仮にキックスを大量に売りたいなら、日本国内で生産して、パワーユニットは1.5Lノーマルエンジンとe-POWERをそろえる。駆動方式も2WDと4WDを両方ともに設定して、価格帯を広げたはずだ。
今のキックスXの価格は、e-POWERと充実した装備により、2WDなのに275万9900円に達する。この価格では大量に売るのは難しく、220万円前後のノーマルエンジン車も必要だ。
つまりキックスは、タイから輸入する時点で、大量に売ることは考えていない。そこでパワーユニットもe-POWERのみ、駆動方式も2WDに限定された。この点について日産の担当者に尋ねると、以下のように返答された。
「今の日産は、国内販売を回復する過程にあるから、コストを抑えることも大切だ。そこで車種やグレードの種類を限定した。選択肢が多ければ、お客様のニーズに合った商品を提供できて好ましいが、それをいきなり実現するのは難しい」
いわゆる選択と集中により、バリエーションを少なく抑えて生産拠点もタイにした。また前輪駆動をベースにしたコンパクトSUVの場合、全般的に4WD比率が低いこともある。大半のコンパクトSUVにおいて、前輪駆動の2WDが70%以上だ。このような複数の事情により、キックスは2WDのみになった。
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