■ファミリー層ウケがいいことが優先されたトヨタ車
当時のカローラは走りの面でシビックに対して明らかに劣勢だった。これはベース車両がカローラのターゲットユーザーである一般ファミリー層に向けたクルマ作りをしていたからだ。
レース結果とは関係なく、トヨタは一般車の販売が着実に伸びていっていた。しかし、ジャーナリズムの世界では速くてコーナリング性能のいいクルマが評価されていたこともあり、カローラだけに限ったことではなく、トヨタのそういうクルマづくりの方向性が批判されることが多かった。
確かに、その頃は欧州車(特にドイツ車)の性能が格段に高く、これはアウトバーンの存在がイチバン大きかったと考えられるが、いかに欧州車に追いつけるか? がテーマとなっていた。
欧州車をベンチマークにする傾向は現在も変わらないかもしれないが、その溝は大きく埋まりつつある。特にこの時代からのトヨタ車を見てきた筆者としては、トヨタ車の進化のゲインには目を見張るものがあるのだ。
■「もっといいクルマづくり」以前にもいいクルマはあった!
特に近年のトヨタ車の進化は著しい。その一番の要因は、まぎれもなく豊田章男社長の誕生だろう。章男氏はもともとモータースポーツに興味があり自らもレースに出場することは周知の事実。現在はトヨタのマスタードライバーという開発にも参加している。
章男氏がトヨタ社長に就いた頃、近しいジャーナリストから「なんでも構わないからトヨタ車のダメ出しをしてほしい」と章男氏自ら声をかけられた、という話をよく耳にした。章男氏のこのような姿勢が、トヨタ車の開発に大きく影響したことは疑いのない事実だろう。
この頃から「もっといいクルマづくり」というスローガンのもと、トヨタのクルマは少しずつ変わっていった。
それまでにも「おおー!」と思わず叫んでしまうようなクルマがなかったわけではない。個人的には2000年に登場したOpa(オーパ)。設計統括した堀氏はストラットマウントにいわゆるドロースティフナーなようなタワーバーを試験装着するほどハンドリングを重要視していた。
現在のシエンタに相当する位置づけのクルマだったが、ベース車両のハンドリングはスムーズにサスペンションが動く素晴らしいものだった。
さらに2013年、マークXに軽量化、低重心化、スポット増し、高性能ダンパーなどで強化した限定100台の “G’s”モデルを製作。このハンドリングと乗り心地は当時として驚くべきレベルだった。そのほかにもノア/ヴォクシーなど、いいクルマが時折顔を覗かせていた。
しかし、それらがそのままバージョンアップすることはなかった。すべて単発だったのだ。
■「7カンパニー制」導入はトヨタ車に大きな変化をもたらした
だがしかし、大きな進化を起こしたのは2016年からトヨタが実施した製品群ごとに分けた7つのカンパニー体制だろう。意思決定、開発速度を優先して、それまでのピラミッド型の組織からそれぞれの製品群ごとにカンパニーを作り、大枠で独自開発を任せたのだ。
カンパニー制はある意味独立企業のようでもありコーポレートガバナンスの立場から本社サイドの管理統制がカギとなる。暴走がいちばん怖いからだ。
ここで大きな役目を果たしているのが豊田章男社長の存在だろう。組織のすべての人々が章男氏の言う「もっといいクルマづくり」を目指してひとつになっているように思う。
製品群ごとに縦割りになりがちなカンパニー制ならではのデメリットもあるだろう。しかし、最近ではそれらのカンパニーがADAS(先進運転支援システム)などでは横断的にうまく機能していることに注目している。
まず、最初に感動したのは2018年にTNGAのプラットフォームを使って登場した「カローラスポーツ」だ。このサスペンションの動きはトヨタ車にはなかったもの。動くサスペンションはあったものの、それらは優れたハンドリングやスタビリティーを持っていなかった。
そのためバンプストッピングラバーなどで動きをサスペンションの動きを制御していた。しかしカローラスポーツはしっかりストロークさせながら、楽しく気持ちいい走りを具現したのだ。
2019年に復活した「RAV4」は、最近のSUVで目立つオンロード志向を塗り変えるかのような、オフロード性能の強化でヒットモデルとなっている。RAV4はオン・オフどちらも楽しめるハンドリングもトヨタとして異端児ともいえる。
さらに最近マイナーチェンジしたレクサス「IS」の進化も著しい。特にFスポーツモデルは欧州ライバルを凌駕するハンドリングを達成している。
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