「変形メカ」が好きです。
戦隊ヒーローものにしても『トランスフォーマー』シリーズにしても、大きな機械が目的に応じてすばやくガチャガチャと姿を変えて活躍する。なんというロマンのある光景でしょう。
クルマ界にもそうした「ワクワク」を与えてくれる機械がありました。そう、みんな大好きリトラクタブル(可動式収納型)・ライトです。
残念ながらさまざまな要因で現在の新車市場からは姿を消してしまったリトラクタブル・ライトですが、依然として郷愁を胸に抱くファンを多く抱えています。
本企画ではそんな皆さまに、リトラクタブル・ライトの辿った軌跡と、本誌が選ぶ名車6選を合わせてお届けします。
文:片岡英明
■なぜ消えたのか? 復活させるのは難しいのか?
フェラーリ365GT4やベルリネッタボクサー、ランボルギーニ・カウンタック、マセラティ・メラクなど、1970年代に一世を風靡したスーパーカーの多くは格納式のリトラクタブル・ヘッドライトを採用し、低く長いノーズを一段と際立たせていた。
あまりに多くのクルマが採用したので、当時、というよりある世代にとってリトラクタブル・ヘッドライトは高性能スポーツカーのアイコンになっている。
そういう意味で、カーデザインに革命を起こしたのがリトラクタブル・ヘッドライトだった。
ヘッドライトユニットをボンネットやフロントマスクのなかに格納させ、点灯するときは昇降させたり、反転させたりする。
最初に採用したのは、1935年にコード社が発売したモデル810だと言われている。手動でライトをポップアップさせた。戦後はシボレー・コルベット(C2)が回転式のものを、ロータスはエランに電動昇降式のリトラクタブル・ヘッドライトを採用し、話題をまいている。
日本では最初に採用したのは、1967年5月に鮮烈なデビューを飾ったトヨタ2000GTだ。
70年代になると、イタリアの自動車メーカーがこぞってリトラクタブル・ヘッドライトを採用するようになった。前述のスーパーカーブームが到来したからである。
リトラクタブル・ヘッドライトは、デザイナーにとって願ってもないアイデアだった。流麗なスタイリングを損なうことなく、安全基準を満たすことができる。ノーズを薄く、低くでき、空気抵抗の低減にも効果が大きい。
安全性と点灯時の性能の観点から、ヘッドライトは取り付け位置と高さが厳しく規制されている。そこで使わないときは格納し、使うときだけポップアップさせるようにした。クルマ好きならずとも目を向けるし、羨望の的にもなる。だからスポーツモデルは積極的に採用した。
日本でも1978年3月にサバンナRX-7が採用し、80年代には多くのクルマがリトラクタブル・ヘッドライトを採用している。ターセル/コルサ/カローラ2などの2BOX大衆車にまで採用が広がった。
だが、90年代になると採用するクルマが激減し、21世紀には消滅する。
その理由のひとつは、点灯したときの空気抵抗が大きいことだ。また、ぶつかったときに歩行者への安全性が問題視された。開閉機構のユニットは重いし、スペースも取る。
重量物を中央に寄せてハンドリングをよくしようと努めているスポーツモデルには不向きなのだ。昼間もヘッドライトの点灯を義務づけている国では開けっ放しで走らなければならない。
機構が複雑なので、故障率は高いし、部品点数が増えるからコストもアップする。
自動車を取り巻く環境も変化した。北米でヘッドライトの光軸の最低地上高規制が緩和されたことも衰退に追い打ちをかけた。
薄くて明るいプロジェクター・ヘッドライトやマルチリフレクター・ヘッドライト、LEDヘッドライトの登場も大きな影響を与えている。
だが、デザインに与えるインパクトは強烈だ。今はアクティブボンネットや歩行者エアバッグなどが開発されているし、衝撃を吸収する素材や軽量部材も続々と誕生してきた。
現代の最新技術を駆使すれば、安全でカッコいいリトラクタブル・ヘッドライトが造れるような気もする。頭の柔らかいエンジニアとデザイナーの頑張りに期待したい。
以下、リトラクタブル・ヘッドライトを装着した国産車のなかで、編集部が特に思い出深い6台をピックアップしたので、そちらを紹介しておきたい。
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