実はエンジンでも脱炭素が可能!? EV化だけではないシナリオとは


 ここ数年でエンジンは劇的な進化を遂げている。わずか1%熱効率を改善するために、どれだけの技術者が知恵を絞り、試行錯誤を繰り返し、エンジンを熟成させてきたか。

 また、ガソリンエンジンは火花点火という常識を覆し、圧縮着火をついにモノにしたマツダのSPCCI(SKYACTIV-Xで採用)……。エンジンの魅力はこれまで以上にないほど奥深く高まっていた。

 それにも関わらず、欧州メーカーがEV化を打ち出したと同時に、欧州では純エンジン車販売禁止政策を打ち出してきたことでエンジンの未来は大分雲行きが怪しくなっているように見える。

 日本企業と合弁しても、なかなかエンジン技術をモノにできない中国も、補助金をバラまいてEVメーカーを続々と誕生させ、エンジン車包囲網を構築してきている(それもちょっとボロが出てきているが)。

 EVのもつ可能性の素晴らしさ、それを否定するつもりなど毛頭ない。けれどもクルマとしてはEVだけにするのはリスクがあり過ぎるし、後述のとおり、そもそも無理があるのだ。

 ハイブリッド車も必要であればエンジンを利用することに変わりないのだが、どうしてもエンジンは脇役にされつつある。

 けれどもエンジンだけでもカーボンニュートラルは実現可能なのだ。どういうことか、ここで明らかにすると共にエンジンに未来はないのか、ここで考えてみたい。

文/高根英幸 写真/MAZDA、Audi、TOYOTA

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水素を燃料電池だけでなくエンジンでも利用する?

マツダRX-8ハイドロジェンREは、水素でもガソリンでも走行できるシステムを採用した世界初水素ロータリーエンジン車(2005年)

 燃料電池は試行錯誤の末、純水素を搭載し、空気中の酸素と反応させることで発電している。水素だけを供給することにより発電効率の高さを追求できた面も大きいが、水素を供給できるのであれば、水素をエンジンの燃料として利用するという手もある。

 なぜなら自動車メーカーは1990年代、水素を燃料とするエンジンの開発に力を入れていた時期があったからだ。

 燃料電池が水しか排出しないのと同様、内燃機関でも水素を燃料とすれば、酸素と結び付いても排出されるのは水だけだ(厳密には爆発によってNOxも発生する)。

 しかし、水素は無尽蔵にあると言いながらも、実は水素を作り出すためには別のエネルギーが要る。つまり水素はエネルギーではなく、エネルギーを貯蔵する手段に過ぎないと考えた方がいい。

 しかもエンジンで燃焼するより、燃料電池の方がずっと効率が高いので、わざわざ燃やす必要はないのが現代の技術レベル。

 水素をほとんどタダのように使えるようになれば、水素燃料エンジンも使えるようになるかもしれないが、それまでエンジンが生き延びられる保証はない。

 よって技術的にはアリでも、水素燃料エンジンはナシだろう。それよりもバイオ燃料の方が可能性は高そうだ。

バイオ燃料と「eガス」に高い可能性アリ!

マツダは、「ひろしま “Your Green Fuel” プロジェクト」にて、次世代バイオディーゼル燃料の原料製造から利用に至るまでのバリューチェーンを構築した

 バイオ燃料は現在でも幅広く使われている。ブラジルではサトウキビ由来のアルコールがクルマやバイクの燃料として用いられてきたし、欧州ではバイオアルコールを85%まで混ぜたガソリンも販売されている。日本のガソリンにもMTBEという名の添加剤としてほぼ同じような成分が入っているのだ。

 アルコールの作り方にもさまざまあるが、クルマの燃料として使うなら燃焼させるとCO2を発生させるが、植物由来の燃料であれば、そこに含まれる炭素は空気中のCO2から取り込んだものだから、CO2は増えないということになる。これがカーボンニュートラル、という考え方だ。

 バイオ燃料には大きく分けて植物を発酵させて作るアルコールと、微細藻類が作る油を搾って精製する燃料がある。

 この微細藻類も様々な研究機関や企業が開発中で、世界中で2000種類はあると言われる微細藻類の中から、最も効率良く油を作り出す種を見つけて、効率の良い培養の方法を探っている段階だ。

 藻が作り出すのは油だけでなく、ビタミンやミネラルなどさまざまな成分を生成して蓄えている。そのため化粧品や栄養補助食品などの原料にもなるし、絞った後の残渣は肥料や飼料、燃料としても利用できるなど、燃料以外にもメリットはいろいろある。

 食用廃油からバイオ燃料を作り出すこともできるけれど、これはシステム上絶対量が限られるから、資源の再利用という点ではありだけど、都市レベルでの使用燃料を賄うのは難しい。一般家庭からも回収するような仕組みにするには、そもそもコストが見合わないからだ。

 ただし、バイオ燃料をどれだけ増やそうとしても、限界があるのも事実。植物や微細藻類を培養する巨大な施設をいくつも作れば、それはやがて農地(海洋性の藻であれば海上でも培養できるが)を圧迫することになり、結局穀物由来のアルコールと同じ結果になってしまう。

 また、一酸化炭素などから科学的に作り出す合成燃料の「eガス」も研究開発が続けられているが、人工的に燃料を作る技術は確立されても、生成のためにエネルギーを必要とするのであれば、そのエネルギー(つまり電気)は何で作り、コストはどうなるのか、という話になるだろう。

 eガスに近いものであるが、アンモニアを利用する手もある。アンモニアはそもそも水素キャリア(水素を運ぶための媒体)としての利用が考えられていた。水素を圧縮して運ぶより、アンモニアとして運んで水素を取り出した方が安全、という考えからだ。

「eガス」とは、一酸化炭素などから科学的に作り出す合成燃料のこと。Audi e-gass projectのイメージ図では、 eガス生成から提供までの流れがかかれている

 しかし、最近ではアンモニアを直接燃料電池の燃料として使う、あるいは燃焼させて熱エネルギーに変換する研究も進んでいる。ただ、攻撃性の高いアンモニアに耐える機械部分のコストや万が一の漏洩リスクを考えると、乗用車に用いるのは難しそうだ。

 クルマ1台のレベルで見れば、エンジン車でカーボンニュートラルを実現するのは難しいことじゃない。けれどもそもそも、どれも1種類の燃料だけで、世界中のクルマを走らせるのは不可能なのだ。

 じゃあやっぱりEVに頼るしかないじゃないか、という声が聞こえてきそうだが、そう簡単に解決する問題ではないのである。

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