■昔の“なんちゃって”はかなり本格的だった
そういえば1980〜1990年代のRV/クロカンブームの頃にも、“なんちゃってRV”の流れがあった。あの時は“ネタ元”が本気のクロカン4WDで今のSUVよりもイカつかったから、勢い、なんちゃってといいながらも、かなりゴツく仕上げるのが“作風”だった。
フロントのカンガルーバーや大型フォグランプ、アンダーカバー、ルーフレールの装着はお約束、本流に寄せて、わざわざスペアタイヤを背負うモデルまで。ワンボックス系にもその流れが波及した。
しかも記憶が正しければ、たいていは4WDでもあり、その意味ではなんちゃってといっては失礼か。
余談だがそうしたクルマを連れ出し、雑誌の撮影で河原や富士山麓あたりへ繰り出した。
ゴツい石の上を歩くようなスピードで乗り越えるワイルドな試乗をしたり、渓流釣りやキャンプ、BBQをしている格好の絵撮りを、お約束だった折り畳み椅子に座りマグカップを手にしたポーズをカメラにむかってさせられたのを思い出す。
余談の余談になるが、ステンレスのマグカップに入った沸かしたてのコーヒーなんて、唇には熱いし、ブラックは濃いし(←気を利かせたクリームの用意などなかった)、飲めたものではなかったけれど……。
翻って現代のなんちゃってSUVは、ベース車次第で4WDが設定される場合もあるが、大半はFF。何が言いたいかというと、かつてのなんちゃってRVの頃に較べ、よりなんちゃって度が高いというか、よりカジュアルになっているといえる。
ただし現代のなんちゃってSUV各車の名誉のために書いておけば、今のクルマのダイナミック性能は昔に較べ格段に向上しているし、駆動系の制御技術も進化し、必ずしも4WDでなくても実用上充分な走行性能を備える。なのでユーザーは、どのクルマでも安心して選んでいい……。そんな状況にある。
■“実用車”に“本格派”も“なんちゃって”もないのだ
では、果たして“なんちゃってSUV”の流れはこれからも続くのかどうか?
続くだろうし、SUVが廃れない限り、連動して人気は続く、と思う。
なぜなら、基本“実用車”だからだ。人が乗った時の室内の広さや快適性、ラゲッジスペースの使い勝手のよさや、運転のしやすさ、燃費性能と経済性と、今のクルマはオーバーオールで見て、およそすべての要件のバランスポイントが高い。
なので多くのユーザーが、問題なく受け入れられる。また、運転のしやすさ、あつかいやすさ、乗り降りのしやすさも、ビギナーや年配のドライバーにとって心強い見方になる。クルマが必需品の地方では、昔からちょっと背の高いSUVを愛用する年配ドライバーをしばしば見かける。
これは楽な姿勢で運転席に乗り降りできること、視界がいいこと、(都市部で乗っても)有料駐車場の発券機に手が伸ばしやすい……。そんな理由からだ。
それともうひとつ、チャーミングであることもなんちゃってSUVの魅力のポイントだ。ベース車に対して+αの個性と演出が、日常的にクルマに乗る際の“気分”を楽しげにしてくれる。
日本人はどちらかといえばシャイで横並び気質だから、飛び抜けているよりも、人並であることの安心感を求める。そんなメンタリティに、ちょこっと色気のある、なんちゃってSUVはハマるのではないだろうか。
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