新型アウトランダーはPHEVのみでデビュー!? ガソリン車廃止の売り方は成功するのか?

 アメリカでは今年4月に発売された三菱の新型アウトランダー。その北米仕様は2.5Lのガソリン車だが、日本での新型アウトランダーはプラグインハイブリッド車だけに絞って販売するという情報が有力となっている。現行モデルにはあったガソリン車は新型では投入されないわけだ。

 これと同じようなラインナップをニューモデルで展開したのが日産のノートやキックスだ。新型ではe-POWERのみというハイブリッドだけのグレード体系で販売している。

 ノートも先代モデルにはあったガソリン車を廃止したわけだが、新型アウトランダーは“ガソリン車なし” のモデルラインナップでも成功するのか? 渡辺陽一郎氏は次のように考察する。

文/渡辺陽一郎  写真/MITSUBISHI、ベストカー編集部

【画像ギャラリー】国内版新型はどうなる!? 2020年4月に登場した北米版新型アウトランダー


■新中期経営計画ではPHEVは2022年デビュー予定だが……

新型アウトランダー(北米仕様)。2021年4月に発売された北米版ではガソリン車も設定されているが、日本ではPHEVのみでの販売という情報がある
新型アウトランダー(北米仕様)。2021年4月に発売された北米版ではガソリン車も設定されているが、日本ではPHEVのみでの販売という情報がある

 今はSUVが人気のカテゴリーになり、新車として売られる小型/普通乗用車の約25%を占める。ミニバンと並ぶ市場規模に成長した。

 そのために新型車の投入も活発で、2021年4月22日には、ヴェゼルがフルモデルチェンジを行った。ヤリスクロス、ライズ、ハリアーなども好調に売れて、国内販売ランキングの上位に位置する。

 そして今後注目されるのがアウトランダーのフルモデルチェンジだ。従来型は2012年に発売されたので、すでに10年近くが経過した。

 三菱が2020年7月に発表した新中期経営計画によると、2021年に新型アウトランダー、2022年には新型アウトランダーPHEV(充電可能なプラグイン方式のハイブリッド車)をフルモデルチェンジすることになっている。

■当初の予定よりも前倒しで発表か

エクリプスクロスPHEVの場合は2020年10月に予約受注を開始し、販売されたのは12月だった
エクリプスクロスPHEVの場合は2020年10月に予約受注を開始し、販売されたのは12月だった

 しかし日本国内では、2021年後半に、新型アウトランダーPHEVを発売する可能性が高い。要は発売時期の前倒しだ。三菱の販売店では以下のように述べている。

 「新型アウトランダーの詳細な情報は、まだメーカーから聞いていないが、発表時期は2021年の10月から11月になると思う。

 しかし(納車を伴う)発売は、2022年に入る可能性もある。エンジンは国内仕様にはノーマルタイプを用意せず、PHEVのみになることが考えられる。今は売れ筋も、明らかにPHEVになっている」。

 発売時期に関しては、注釈が必要だろう。最近は各メーカーとも、価格などを明らかにして本格的な受注を開始する「発表」と、納車を伴う「発売」に時間差を設けるようになった。

 生産開始のかなり前から注文を取り始めれば、販売台数や売れ筋グレードが早期にわかり、生産計画も立てやすいからだ。その代わりユーザーは、注文を入れてから納車まで長々と待たされてしまう。

 例えばエクリプスクロスPHEVでは、2020年10月に予約受注を開始して、発売されたのは12月だった。このパターンを踏襲すると、新型アウトランダーの発表、あるいは受注開始は2021年の10月から11月に行う。納車を伴う発売は、12月から2022年1月と考えられる。

 仮にこのスケジュールで発表/発売すれば、2022年の3月決算には、新型アウトランダーの売れゆきがプラスの効果をもたらす。メーカー、販売会社の両方にとって都合がいい。

■現行の7割超がPHEVでの登録 新型はPHEVのみの設定になる!?

新型アウトランダーと同じ2.5Lエンジンを搭載する日産ローグ
新型アウトランダーと同じ2.5Lエンジンを搭載する日産ローグ

 気になるのはエンジンだ。2021年2月に北米で発売された新型アウトランダーは、新開発された2.5Lノーマルガソリンエンジンを搭載する。このエンジンは、同じく海外ですでに発売されたローグ(エクストレイルの姉妹車)と共通だ。

 ただし販売店が述べたとおり、2.5Lノーマルエンジンは日本仕様の新型アウトランダーには搭載されず、PHEVのみになる可能性も高い。

 予想を裏付けるのは、アウトランダーの国内販売状況だ。2020年に国内で登録されたアウドランダーの内、75%をPHEVが占めた。ノートも先代型のe-POWER比率は75%で、新型になってノーマルエンジンを廃止した経緯がある。

 また三菱の場合、国内の販売店舗数は約600箇所だ。業務提携を結ぶ日産の約2100箇所に比べると30%弱の規模だから、エクストレイルに比べて登録台数も少ない。PHEVのみの設定にして、効率を高める可能性も高い。

 販売店でも「アウトランダーは三菱の上級車種だから、PHEV専用車にして、イメージリーダーにする方法もある」と述べている。

■車種ごとに狙いを明確にする効果も

新型アウトランダーのボディサイズには競争相手が多い。個性としてPHEVに特化すればアピールポイントにもなり得る
新型アウトランダーのボディサイズには競争相手が多い。個性としてPHEVに特化すればアピールポイントにもなり得る

 三菱にはSUVの車種数が多い。アウトランダーに加えて、従来型アウトランダーと共通のプラットフォームを使うエクリプスクロス、発売から11年を経過したもののコンパクトSUVのRVRもある。ラインナップの重複を避ける意味でも、アウトランダーをPHEV専用車にする方法が考えられるだろう。

 また新型アウトランダーのボディサイズは、全長4710mm×全幅1860mm×全高1750mmだ。このサイズには、RAV4、CX-5、フォレスター、共通のプラットフォームを使う次期エクストレイルも含めて競争相手が多い。

 そうなると販売店舗数の少ないアウトランダーとしては、車種の個性化を図る必要があり、PHEVに特化したほうがユーザーから見てもわかりやすい。

 その代わりアウトランダーPHEVは価格帯が高い。現行型でも440万~530万円だから、装備の充実によってさらに価格は高まる可能性もある。

 そこで重要になるのが、下側の価格帯を受け持つエクリプスクロスだ。1.5Lターボのラインナップを強化して、アウトランダーとは違う割安感を強めたい。そうなれば車種の個性も明確になり、ユーザーも選びやすい。

 つまり新型アウトランダーとエクリプスクロスを別々の存在と考えるのではなく、ユーザーが用途、好み、予算によって選べる「三菱SUVシリーズ」として連携させるわけだ。RVR、デリカD:5、eKクロス、eKクロススペースもそこに含められる。

■電気自動車で培ったノウハウは4WDとも相性が良い

エクリプスクロスPHEVのエンジンルーム。三菱が得意とする4WDはモーターとも相性がいい
エクリプスクロスPHEVのエンジンルーム。三菱が得意とする4WDはモーターとも相性がいい

 以上のようにPHEV専用車となる新型アウトランダーの登場と併せて、三菱SUVラインナップの訴求方法も見直せば、三菱車全体で売れゆきを伸ばす余地も生じる。

 特に今後は電動化に向けたユーザーの関心とニーズが高まる。三菱は以前から、プラグインハイブリッドとi-MiEVにより、電気自動車を商品化してきた。

 その一方で三菱には、かつてのジープ、パジェロに始まった4WD(4輪駆動)技術でも長い実績がある。

 モーターは駆動力の綿密な制御が行いやすく、4WDを組み合わせると、エンジン駆動の車両以上に優れた走行安定性を得ることもできる。電動化と4WDは親和性の高い技術で、その成果を満喫できる象徴的な車種が新型アウトランダーだ。

 PHEVに特化される新型アウトランダーの売れゆきは未知数だが、エクリプスクロスを筆頭に特別仕様車の設定なども含めて三菱車全体のラインナップを効果的に見直せば、業績を高めることは可能だ。

 逆に新型アウトランダーだけが優れたクルマにフルモデルチェンジされても、ほかの車種との相乗効果が得られないと、目覚しい効果は期待できない。三菱の総合力が試されている。

【画像ギャラリー】国内版新型はどうなる!? 2020年4月に登場した北米版新型アウトランダー

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