■納期遅延の一因には生産工業の集中も
フィットの納期が遅れたり、登録台数が下がった理由として、半導体の影響のほかに、ホンダからは「売れ筋車種の生産が鈴鹿製作所に集中している」という声も聞かれる。
鈴鹿製作所では、従来からN-BOXを始めとする軽自動車のNシリーズと、フィットを生産していた。そこに今では新型になったヴェゼルも加わっている。
今のホンダの国内販売では、軽自動車の比率が安定的に50%を上まわり、そこにフィットとフリードを加えると70~80%に達する。フリードの生産は寄居工場が担当するが、Nシリーズ、フィット、さらに新型ヴェゼルまで加わると、鈴鹿製作所の負担も増える。
ちなみに今のクルマの生産は、さまざまな車種を共通のラインで生産する混流生産が主力だ。そのために鈴鹿製作所でも、軽自動車のNシリーズ、コンパクトカーのフィット、SUVのヴェゼルが同じラインで生産される。ヴェゼルは3ナンバー車だから、ラインを一部変更したという。
以上のようにフィットの登録台数が前年に比べて60%以上も減った背景には、半導体の不足、鈴鹿製作所の過密などが挙げられるが、それだけではないだろう。新型フィットの売れゆきは、発売当初から冴えなかったからだ。
■モデルチェンジ直後からの伸び悩みもあった
現行フィットは前述のとおり2020年2月に発売され、2020年1月~12月の1カ月平均は8184台、2020年度(2020年4月から2021年3月)には7859台を登録した。人気は相応に高いが、発売時点でメーカーが公表した販売計画の1カ月当たり1万台には達していない。
コロナ禍の影響を差し引く必要もあるが、メーカーの公表する販売計画台数は、基本的にその車種が生産を終えるまでの平均値だ。いわゆるコミットメント(公約とか責任)だから、発売から数年を経過して売れゆきが下がることも考えると、発売直後は販売計画を上まわる必要がある。
そこまで考えると、コロナ禍とはいえ、発売直後の登録台数が販売計画の80%前後では少ない。2020年の国内新車販売台数は、コロナ禍の影響を受けながらも前年に比べて11.5%の減少、2020年度は7.6%の減少に収まった。
そこを考えてもフィットの登録台数が目標値に比べて約20%少ないのは、伸び悩みと考えられる。
フィットは機能と価格のバランスを考えると、買い得感の強い商品だ。ライバル車のヤリスに比べると、後席と荷室が広く、シートアレンジも豊富で、乗り心地も快適に仕上げた。
フィットは全長が4m以下に収まり、全高も立体駐車場を使いやすい高さに抑えながら、ファミリーカーとして使える実用性を備える。
しかもハイブリッドのe:HEVはモーター駆動が基本だから加速が滑らかでノイズも小さく、高機能なシステムでありながら、1.3Lノーマルエンジンとの価格差はホームの場合で約35万円だ。
一般的に1.5L前後のハイブリッドは、ノーマルエンジン車に比べて40万円前後は高いので、フィットのe:HEVは高効率で割安だ。そのためにフィット全体の約70%がe:HEVで占められる。
■フィットが伸び悩むこれだけの理由
それなのにフィットが売れない理由は、大きく分けて3つある。
まずはデザインだ。フィットのボディスタイルは視界が優れ、内装ではメーターの視認性やスイッチの操作性もいい。機能的な形状だが、フロントマスクなどは、従来型と大きく異なるから馴染みにくい。
インパネも上面を平らにして視界を向上させたが、立体感は乏しく、2本スポークのステアリングホイールも独特だ。フィットの優れた特徴が伝わりにくい面もある。
売れない2つ目の理由は価格設定だ。前述のとおりe:HEVを含めて、機能に対して割安だが、ヤリスと違って130万~140万円台のグレードは用意されない。
ヤリスでは1Lエンジンを設定して、X“Bパッケージ”は衝突被害軽減ブレーキを省いて価格を130万円台に抑えた。安全装備をカットしているから、まったく推奨できないグレードだが、安い仕様を用意すると購入時の検討対象に入る場合がある。
ヤリスの1Lエンジン車は、営業用などに使う法人に売る時も有利だ。
3つ目の理由としてN-BOXの高人気も挙げられる。N-BOXは発売から3年近くを経過した今でも、1カ月平均で2万台近くの届け出となっている。そしてフィットのノーマルエンジン車で売れ筋になる1.3ホームの価格は171万8200円、N-BOXで人気の高いカスタムLは176万9900円だから、価格も同程度だ。
そして両車の機能を比べると、走行安定性や乗り心地はコンパクトカーのフィットが上まわるが、N-BOXは空間効率が優れているから自転車などを積みやすい。
内装の作りも、同等かN-BOXが上質に感じる。N-BOXが絶好調に売れて、今では一種のトレンドになったから、フィットが顧客を奪われている面もある。
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