■高齢化社会に自動運転技術はどう役に立つ?
西村 超高齢社会となった日本ですが、高齢化と自動運転技術の関係ははどう考えていくべきでしょうか? また、福祉車両に対する自動化はどうでしょうか? レベル2との連携度合いを、たとえば30㎞/h以下の低速域限って早期に作動させるようしきい値を下げるなどの案はいかがでしょう。
杉本 そうした課題には、自動化レベルの向上が現実的な対処方法として考えられます。具体的にレベル4が実現すれば、そうした課題への対応が始まると予想できますが、ただ早期の普及はむずかしいです。
福祉車両に関しては、我々もレベル2の技術を用いた解析を試みています。ある大学機関によると、車載の外界認識センサーの画角を拡げることで、視覚に障害をお持ちの方の事故低減効果が高まるという研究結果もあるようです。
レベル2の技術をベースに特化したシステムの優位性が説明できれば、運転免許証についても警察庁と相談できるようになると思います。しかし、レベル2は精度を高めたとしても、やはり運転支援技術であり、責任はドライバーにあります。さらに、身体の障害もレベルがさまざまですので、高齢者や障害者の方向けの技術開発を早期に実現するのはむずかしいかもしれません。
■ナイト2000のようにクルマと話せる未来はくる?
西村 いつでも、どこでも、そしてだれもが享受できるレベル3技術の素晴らしさと発展性はよくわかりました。ただ、ハンズフリー走行は副次的効果のひとつで主たる目的ではないとはいえ、なぜ、ハンズフリー走行があるのか、その意味と意義を今一度お話ください。
杉本 我々が目指す究極は「事故ゼロ社会の実現と自由な移動」です。そをれ今回は、Honda SENSING Eliteで一歩近づいたと考えています。前回お話したように、「限定的で可能な限り」の領域はともかく事故ゼロを達成する。これには大きな価値があり、その実現に向けた技術を追求することには意義があります。よってハンズフリー走行は、その過程で得られた副次的効果の意味があり、意義があります。
「自動運転レベル3でなければいけなかった理由」ホンダ 杉本洋一氏インタビュー(前編)【自律自動運転の未来 第12回】
この先、レベル3に代表される技術が普及するには、おそらく30年間は必要でしょう。その間、我々は協調型AIを突き詰めます。そして可能な限り、ドライバーである人の能力を引き出したいとも考えています。
運転操作ができるうちは人が中心で運転操作を継続する。そしてシステムは人の運転操作をサポートする。この関係性を構築するのは協調型AIであると考えています。
西村 なるほど、人々のQOL(Quality of Life/生活の質)向上の観点からも協調型AIが重要なのですね。そうなると知能化はより複雑に、そして人に合わせた発展が期待できるのでしょうか?
たとえば人が抱く「怖い」という感情は、運転操作の上ではセルフディフェンスという観点から大切です。知能化には、そうした人の感情や振る舞いなどの要素も重要だと考えています。
こういった話になるとアメリカのテレビ番組『ナイトライダー』に登場するAI車両「K.I.T.T.」が持ち出されますが、杉本さんのお話からするとナイトライダーで描かれた人と機械のコミュニケーションの取り方は実現可能であると思えてくるのですが(笑。
杉本 真面目な話、AIの能力を高めていくと、ナイト2000に搭載されたK.I.T.T.の知能は実現可能であると言われています。しかし、むずかしいのはそこから先。人とのコミュニケーションは人工知能にとってハードルが高く、それをいかに行っていくのか……。これが我々に課された次の課題であり、真摯に向き合っています。
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