■特に注意したいエンジン回りからの異音
さて、エンジン回りから発せられる異音はトラブルの前兆の最たるものだが、原因が異なるにもかかわらず似たような音を発するケースが多々ある。
例えば、補器類の駆動ベルト(いわゆるファンベルト)が緩んだり劣化するとスリップして「キュルキュル」という音を発するが、A/Cコンプレッサーのテンショナーに組み付けられているアイドラプーリーの「ベアリング不良」でも似たような音がする。
これと似たような例として、MT車のクラッチのパイロットベアリングが不良になったときにも、同様の異音を発する。ただし、このケース場合はクラッチを繋いだ直後に発するため、注意していればすぐに判別できる。
このように似たような異音ながら、原因や部位がまったく異なるケースが往々にしてあるため、問題部位の特定はどのような状況下で、どんな操作をしたら発生するのか等々、発生状況から総体的に判断する必要がある。
また、金属の叩音でも軽い音だったら意外にたいしたことはない。問題となるのは重い音で、最初は他の雑音に紛れるほどの小さかったものが徐々に、あるいは突然音量が高まったときは要注意! 次の段階として焼き付いてロックする危険性があるからだ。
そんなエンジン回りの異音でもっとも遭遇しやすいのが「キュルキュル」というベルト鳴きだ。走行に必要な電気の発電を担っている「オルタネーター」やカーエアコンの動作に必須の「ACコンプレッサー」、冷却水の循環を担っている「ウォーターポンプ」、そして油圧式パワーステアリングの「油圧ポンプ」といった補機類は、エンジンの回転力をベルトで伝達することで駆動されている。
この駆動ベルト、スリップすることなく駆動力を伝達するために、常に一定のテンションがかけられている。そんな状態で高速回転しているため、使用していれば伸びて張りが緩み、年数が経てば経年劣化で弾力も失われる。
その結果、加速時やステアリングの据え切り等、負荷がかかったときにスリップして「キュルキュル」という異音を発生。スリップすると伝達力が弱まるため、状況によってはオーバーヒートやバッテリー上がりといった二次的なトラブルを誘発することにもなる。
ところが、近年主流の「Vリブドベルト」と呼ばれるタイプは張る圧力が強くて簡単には緩まず、4万~5万kmは楽にノーメンテで走れてしまう。それゆえ点検を怠りがちで、明確な不具合症状が現れるまで気付かずにいる人が多い。ダメになるときは突然、一気に逝くので注意したい。
その駆動ベルトに回転力を伝えるという重要な役割を担っているパーツが「クランクプーリー」で、エンジンの回転力を取り出すクランクシャフトの先端に取り付けられている。
この「クランクプーリー」、見た目は単なる金属の塊だが、エンジン始動時や加速時など瞬間的な衝撃がファンベルトに伝わるのを防止するため、内輪と外輪の間に衝撃吸収用のダンパーが組み込まれている。その衝撃ダンパーの材質は経年劣化するゴム。走向距離が延びたり、年数が経過すると確実に劣化し、切れて空回りするようになる。
初期症状としては始動時や補機に負荷がかかったときに「キュルキュル」と、ベルト鳴きと酷似した異音が生じるため勘違いしやすく、適切な対処を遅れがち。張りは正常で劣化の徴候も見られないのに「ベルト鳴き」のような異音を発したら要注意!
試しにプーリー側面にマーカーで、端から端まで1本線を記入してエンジンを回してみたい。エンジンを止めたときに1本線のままズレなければ問題ない。
が、もしも内周と外周にズレを生じたなら、ダンパーが切れて空回りしている。そのままでは症状は悪化する一方。ベルトで駆動されている補機類が全て同時に、動作不良に陥ることになるため、ただちに「クランクプーリー」を交換する必要がある。
コメント
コメントの使い方