ホンダヴェゼルは強敵トヨタSUV軍団を超えられるのか

■今後の売れゆきを占う

 そこで気になるのが今後の売れゆき。新型ヴェゼルは先代型の実用性を継承しながらデザインを洗練させた。SUVの特徴とされる存在感やカッコよさもあり、好調に販売できる商品力を備える。

エントリーグレードのヴェゼル Gは、ヴェゼルのなかで唯一の純ガソリンエンジン搭載モデル。4WDも選べる
エントリーグレードのヴェゼル Gは、ヴェゼルのなかで唯一の純ガソリンエンジン搭載モデル。4WDも選べる

 現時点でSUVの販売1位はヤリスクロスで、2021年1~5月の1カ月平均登録台数は9710台であった(ヤリスとGRヤリスを除く)。2位はライズで8248台、3位は僅差でハリアーの8207台だ。先代ヴェゼルは最も多く売られた2014年の1カ月平均が8000台に達したしたから、この3車種と互角に戦える可能性はある。

ヤリスクロスはヤリスよりひと回り大きく、「ヤリスに乗りたいけど、少し小さいな~」という層をしっかり捉える
ヤリスクロスはヤリスよりひと回り大きく、「ヤリスに乗りたいけど、少し小さいな~」という層をしっかり捉える
今まで出てきていたコンパクトSUVよりも格上ではあるが、日本で人気のSUVといえばトヨタ ハリアーだ
今まで出てきていたコンパクトSUVよりも格上ではあるが、日本で人気のSUVといえばトヨタ ハリアーだ
ダイハツ ロッキーのOEM車両であるトヨタライズ。ロッキーより売れている
ダイハツ ロッキーのOEM車両であるトヨタライズ。ロッキーより売れている

 ちなみに2020年5月以降、トヨタの全店ですべてのトヨタ車を買えるようになり、人気車は売れゆきを従来以上に伸ばして販売不振の車種は一層落ち込んだ。ヤリスクロス、ライズ、ハリアーは全国の約4600店舗で好調に売られるため、販売競争では約2150店舗のホンダヴェゼルは不利になる。

 従って1カ月平均で1万台近くを登録するヤリスクロスを抜くのは困難かも知れないが、ライズとハリアーを超える可能性は高い。

 そのためにはホンダが解決すべき課題も多い。まずはヴェゼルの生産体制だ。以前のヴェゼルは埼玉県の狭山工場で生産されたが、同工場が閉鎖されることになり、今は鈴鹿製作所が生産している。鈴鹿製作所では、N-BOXを始めとする軽自動車のNシリーズとフィットも生産しており、そこにヴェゼルも加わったから今の生産状態は過密だ。

 さらに昨今の半導体不足も重なり、ヴェゼルの納期は、前述のとおり半年から最長では1年と大幅に遅延している。この問題を解決しないと、ヴェゼルがヤリスクロス、ライズ、ハリアーと販売競争を展開することは難しい。

 生産が軌道に乗って納期遅延も収まったら、ノーマルエンジンのグレードやオプションを充実させることも必要だ。現時点ではヴェゼルのグレードはハイブリッドのe:HEVが中心になる。そのためにヴェゼルの販売総数のうち、93%をe:HEVが占める。

 ノーマルエンジンのGでは、後方の並走車両を検知して知らせる安全装備のブラインドスポットインフォメーションなどを装着できず、選びにくいグレードになっている。

 そこでニーズの高い安全装備をノーマルエンジンのGにオプション設定したり、これらを標準装着する上級グレードを用意せねばならない。

 ヤリスクロスも以前はハイブリッドの販売比率が70%以上を占めたが、直近の2021年5月は約50%だ。今はハイブリッドとノーマルエンジンが同程度に売れているから、ヴェゼルもノーマルエンジン搭載車を充実させると、堅調な売れゆきを維持できる。

 前述のとおりヴェゼルは、好調に売れる今のコンパクトなホンダ車では、実質的に最上級車種だ。ステップワゴンなどからのダウンサイジング、フィットからのアップサイジングという2つのニーズがあり、バリエーションの充実は欠かせない。そこを入念に行えば、トヨタSUV軍団の牙城に喰い込める。

■「負け嫌い」は必ず反撃する

 しかしトヨタも安穏とはしていない。今はSUVが絶好調に売られるから、さらに車種を充実させる。今後は海外ですでに発売されているカローラクロスも投入する予定だ。

 販売店では「カローラクロスが国内デビューすることは間違いない。ただし現時点で発売時期は知らされていないから、今年度の下半期(2021年9月以降)になる」という。

今年度の下半期に投入予定とされるカローラクロス。トヨタのSUVラインナップで抜けていた、ミドルサイズの悪路向き領域を埋めるモデルになりそう
今年度の下半期に投入予定とされるカローラクロス。トヨタのSUVラインナップで抜けていた、ミドルサイズの悪路向き領域を埋めるモデルになりそう

 カローラクロスは、C-HRと共通のプラットフォームを使う前輪駆動ベースのSUVで、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も2640mmで等しい。全長は4460mm、全幅は1825mm(いずれも海外仕様)だから、C-HRよりも少し大きいが、SUVではコンパクトな部類に入る。

 カローラクロスとC-HRで、最も大きく異なるのはSUVの性格だ。カローラクロスは前輪駆動ベースのSUVだが、フロントマスクのデザインなどは悪路向けのSUVに近い。上級SUVに置き換えると、C-HRに相当するのがハリアーで、カローラクロスはRAV4の位置付けになる。

 SUVが好調に売れる理由は、外観のカッコよさと広い居住空間や荷室といった実用性を両立させ、なおかつシティ派(前輪駆動ベース)/ラフロード派(前輪駆動ベース)/本格オフロード派(後輪駆動ベース)という3種類の商品特性を用意できることだ。

 トヨタの場合、シティ派はコンパクトサイズ:ヤリスクロス、ミドルサイズ:C-HR、Lサイズ:ハリアーをそろえる。しかし外観が野性的なラフロード派は、コンパクトなライズとLサイズのRAV4は用意するが、中間のミドルサイズは抜けている。そこにカローラクロスを当て込む。

 今はマツダなども含めてシティ派SUVの車種数が増えたから、SUVを選ぶユーザーに原点回帰の傾向が見られるようになった。野性味の感じられるRAV4やライズのようなラフロード派が注目され、カローラクロスのニーズも高い。

 そうなるとトヨタのSUVラインナップは以下のように整えられる。

トヨタのSUVラインナップ。カローラクロス投入で、シティ派から本格オフロード派まで幅広く取り揃えることになる
トヨタのSUVラインナップ。カローラクロス投入で、シティ派から本格オフロード派まで幅広く取り揃えることになる

 2020年度におけるトヨタのシェア(レクサスを含む)は、国内市場全体では33%に留まるが、小型/普通車に限れば52%に達する。今はホンダや日産まで軽自動車に力を入れて、国内の軽自動車比率が38%だから、小型/普通車の需要は軽自動車をほとんど扱わないトヨタに集中した。そこで過半数を占めている。

 そうなるとトヨタは、売れ筋カテゴリーのSUVをいっそう一層充実させる必要があり、カローラクロスを加えて8車種を用意するわけだ。

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