「EVオンリー」なんてまだまだ不可能! 豊かな世界を残すためにいま私たちが考えるべきこと

■トヨタは水素エンジンに次世代パワーユニットとしての大いなる可能性をアピールする

 例えば、水素をそのまま内燃機関で燃焼させる水素エンジン。これはBMWとマツダが長年研究を続けてきたが、最近トヨタがモータースポーツ用の水素燃焼エンジンを発表して話題になった。

「EVオンリー」なんてまだまだ不可能! 豊かな世界を次世代に残すため私たちがいま考えるべきこと
トヨタは水素を燃料とする直3、1.6Lターボエンジンを搭載するカローラスポーツを5月21~23日に富士スピードウェイで開催された「富士SUPER TEC24時間レース」に投入した

 水素エンジンは燃焼後には基本的に水しか排出しないクリーンな動力源で、FCVなどの普及が進まない過渡期には、水素のサプライチェーンを回す役割が期待できる。

 課題はガソリン燃焼に比べてパワーが出しにくいことで、マツダが実験していた水素RE(ロータリーエンジン)搭載RX-8の経験では、ガソリンから水素に燃料を切り替えた瞬間(バイフューエル仕様だった)、ガクっとパワーダウンした。

「EVオンリー」なんてまだまだ不可能! 豊かな世界を次世代に残すため私たちがいま考えるべきこと
RX-8のロータリーエンジンを水素燃料対応とした「ハイドロジェンRE」は2004年に発表され、自治体などに限定してリース販売された。水素搭載量がかぎられ、航続距離が短くなるため、ガソリンとのバイフューエルとされた

 水素は理論空混合比の発熱量こそガソリンの約84%と大差ないが、理論空燃比が34:1(質量比)と超希薄なため、ガソリン並みのパワーを出すには過給と直噴が必須要件。これは技術的には解決可能な課題だから、あとはコストの問題。

「EVオンリー」なんてまだまだ不可能! 豊かな世界を次世代に残すため私たちがいま考えるべきこと
水素エンジンのイメージ画像。水素をレシプロエンジンの燃料として使用するということは、ものすごく高い技術的ハードルを乗り越えなければ実現できないことなのだ

 そのほかにも、水素そのままでは貯蔵や輸送に不便なので、窒素と反応させてアンモニア(NH3)にしてタンカーで運び、発電所ではアンモニアのまま燃焼させてカーボンニュートラルな火力発電とする構想や、水素をCO2と反応させて炭化水素(ガソリンの主成分)を精製し、従来どおりの内燃機関で利用するというアイデアもある。

 これがいわゆる「eFUEL」。

■EVだけでは現状ムリ!!! 次世代に豊かな未来を繋ぐために考えるべきこと

 こうして、最初バッテリーEVさえあれば世界が救えると思っていた人たちも、ようやくそれだけでは不充分と気づき始めているのが最近の情勢。

 自動車メーカーにしても、あと10年や20年でビジネスを完全にバッテリーEVに移行できるとは最初から想定していないわけで、水素エネルギーへの期待の高まり(とりわけ水素ベースの液体燃料への期待)は、既存の内燃機関の延命を考える自動車メーカーの本音が漏れてきているという見方もできると思う。

 全体的な趨勢としては電動化へ動きつつも、いっぽうで水素燃料は既存の内燃機関技術を活用可能ということで、大きな可能性を秘めている。

 エンジンが鼓動を刻み、排気音を発する「クルマの魅力」のためにも、多くの課題を克服して、水素エンジンが市販されることに期待したい。

 その現実的な方向性として、水素から作り出される「eFUEL」は内燃機関に新たな可能性を与えることになろう。


【番外コラム 01】「eFUEL」っていったい何⁉

 言葉だけを聞くと、なにやら「魔法の燃料」みたいな印象だが、eFUELを簡単に説明するならば、“余剰となる”再生可能電力を利用して製造した水素を、製油所などで発生するCO2を回収して触媒反応で合成して得られる炭化水素系液体燃料のこと。

 ポイントは、生成プロセスで余剰となって捨てられてしまう再生可能エネルギーを使用する、ということ。この余剰電力という点がキーとなってくるのだ。これによって最終的にカーボンオフセットの実現を目指す、というのがeFUELの実態だ。

 液体燃料なので、いわゆる内燃機関で使用可能。ガソリンと同等のエネルギー密度を持ちながら、燃焼によるCO2排出はガソリンの85%減となり、WtoWの観点ではEVと同等のCO2排出量という研究報告もある。

 一方、ガソリン精製の10倍以上という製造コストが普及のネックとなるが、既存の内燃機関車を活かしながら、カーボンオフセットを実現するための切り札として期待されているのだ。

次ページは : 【番外コラム 02】なぜロータリーエンジンは水素燃焼と相性がいい!?

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