日本市場におけるスバルの存在感が、最近薄まってしまっているように思える。7月10日に中村知美新社長のもとで新中期経営ビジョン(「STEP」)を発表したものの、完成車検査無資格者問題、燃費データ改ざん、吉永社長の退任…と、一連の負のイメージから脱却したとは言い難い。
そうすると不思議なもので、クルマに対してもどこか曇ったメガネで見がちになってしまう。もちろん不正問題はクルマたちの性能そのものの根本に関わることだから仕方ないのだが、一度ここでフラットにスバル車の実力を見極めてみたい。
ここでは、スバルとスバル車たちの現在を俯瞰しながら、OEM車と新型が登場したてのフォレスターをのぞくスバルの現行9モデルを対象に、それぞれの他社のライバル一番手モデルとの比較でその実力を問う。判定は岡本幸一郎氏にお願いした。
(新型フォレスターの紹介記事に関してはこちらを参照)
文:岡本幸一郎、ベストカー編集部
写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2018年6月26日号
■スバルとスバル車たちの現在地
最近のスバルはいいことよりもよくないことを報じられるほうが多い気がするが、ここでは会社のことは少し忘れて、クルマそのものに目を向けてみたい。
まず、現在どういう状況にあるか整理すると、先んじて次世代に移行したインプレッサ系の評判が上々なのはご存じのとおり。同じSGP(スバルグローバルプラットフォーム)を用いた新型フォレスターも登場した。

いっぽう、現行型になって時間の経過したレガシィ系、WRX系、レヴォーグ、BRZについては、次世代モデルが待ち遠しいのはやまやまだが、それぞれ熟成が進んで完成度がかなり高まっていることには違いない。
その要因として、スバルは車種数があまり多くないのも特徴だが、だからこそどの車種も手を抜くことなく大切に育てているように見受けられる。それは昔から変わらない。

半面、このところスバルらしさが全体的に徐々に薄れてきているのは誰しも感じているところだろう。象徴的なのはMTとターボの選択肢がずいぶん少なくなったことだ。しかも走りを訴求するブランドなのにCVT(無段変速機)がメインになっていることに不満を感じている人は少なくない。ちなみに、名機EJ20は現行WRX STIとともに姿を消すことも確実視されている。
そうした独自性が薄れたことに加えて、AWDやアイサイトについても、他社がかなり力を入れて追い上げてきたことで、その優位性も徐々に薄れてきている。
デザインについては相変わらずだ。よくも悪くもスバルらしさはあるが、例えばマツダのような芸術性や、トヨタや日産のような斬新さや個性はなく、デザインで人を振り向かせる力が足りないように思える。たとえコアなスバルファンがそれを求めなくても、メジャーを狙うのであれば必要だ。
あるいは電動化技術も、表に出てこないところでなんらか進めているのだろうが、いずれにしても「得意」といえる水準にはないことには違いない。また、日本では不在となった3列シート車の動向も気になるところだ。
いろいろ考えるとスバルはなかなか難しい局面を迎えているように思えてくる。ひとまずは、できるだけ早く評判のよいSGPの採用をさらに進めることと、パワートレーンのアップデートを図ることが先決なのは、中の人たちが一番よくわかっているはずだよね。
■XV(2017年5月発売)
エクリプスクロスが100点なら、XVは90点

価格帯とボディサイズからすると競合しそうなのは、C-HR、エクリプスクロス、少し小柄ながらCX-3、ヴェゼル、ジュークあたり。
採点では実用性をわりきってデザインに特化した個性的なクルマは点数が低くなりがちなのだが、販売的には、直近は少し落ち着いてきたものの昨年はC-HRがダントツだったのはご存じのとおりだ。
いっぽう、すべてにおいてそつなくまとまっているのがエクリプスクロスとヴェゼル。実用性も高く走りの仕上がりも上々で、あまりマイナス要素がないので点数も高くなる。
では、XVはどうかというと、その両方の要素をうまく持ち合わせている。見た目の存在感もあるし、室内空間や荷室の広さも充分。デザインは好みによるとして、クルマとしての実力は高い。
そしてそれを新顔のエクリプスクロスがさらに上回っているということ。老若男女、誰が乗っても絵になるデザインや、よりSUVらしさを持ち合わせているのが強みだ。
ちなみにこのなかで専用の車体が与えられていないのは実はXVのみ。それはスバルの場合は上にフォレスターが控えているからだろうが、そのぶんXVはよりとっつきやすく、より若々しさをアピールするデザインとされているといえる。
■インプレッサスポーツ(2016年10月発売)
プジョー308が100点なら、インプレッサスポーツは88点


このクラスにはゴルフがあり、プジョー308も、さすがは欧州COTY(カー・オブ・ザ・イヤー)受賞車と登場から時間のたった今でも感心する点が多い。ライバル一番手は308で、僅差の次点にゴルフという感じだ。
308は室内の広さや荷室など数値においてほぼすべてゴルフを上回っているし、内外装の仕立ても上々で、しなやかで素直な操縦性を持つ走りのよさにも舌を巻く。
そんな厳しい市場における競争力を高めるべく開発したSGPも相当にハイレベルだが、ステアリングフィールや足回りなど、まだ欧州勢に学ぶ点は多い。また、パワートレーンの魅力に乏しいのもインプレッサの弱点。日本勢の強敵としてはアクセラとシビックが挙げられる。
■インプレッサG4(2016年10月発売)
シビックセダンが100点なら、インプレッサG4は93点


このクラスのセダンは輸入車の選択肢はナシ。日本勢では、アクセラも出来はよいのになぜかセダンになると一気に存在感が薄れるのだが、いっぽうで気になるのがシビックだ。ハッチバックほど過度にスポーティな性格は与えられておらず、クルマとしてのまとまりはセダンが上。パンチの効いた1.5Lターボエンジンの加速感と俊敏なハンドリングがもたらす走りの気持ちよさはこのクラス随一。
G4も走りは上々で、セダンとハッチバックでけっこう違うものだと感心したものだが、同じくパワートレーンに魅力がないのは否めない。
そのほか、プレミオ/アリオン、シルフィ、グレイスもあるが、ずっと若々しい雰囲気を持つG4の敵ではない。
■WRX S4(2014年8月発売)
アウディA3が100点なら、WRX S4は90点


この価格帯でこれほど高い性能を持つ本格的なスポーツセダンというのはそうそうないし、その性能を2ペダルで手軽に楽しめるようにしたところがポイントだ。
世界的にも珍しい位置づけのクルマであり、直接的なライバルがパッと思い浮かばないところ。レクサスISやスカイラインはクラスも性格も違うし、むしろアウディA3セダンやベンツCLAのほうが気になる存在かもしれない。
そしてWRX S4は彼らに対してもパフォーマンスの高さでは上回るほどだが、実際にドライブしてみても、いかんせんCVTというのがいただけない。これでステップATかDCTだったらはるかによかったのにと思わずにいられない点が少々残念だ。
■WRX STI(2014年8月発売)
ゴルフRが100点なら、WRX STIは110点!!!


ランエボなき今、ライバルらしいライバルは不在に。しいていうと、近いクラスで4WDの高性能モデルというと、アウディS3/RS3やメルセデスCLAのAMG版などもあるが価格が違い過ぎるのでスルーするとして、ライバルとなるのはハッチバックで価格も高いがゴルフRぐらいのものか。
ゴルフRも本当によくできたクルマで、速いだけでなくフトコロの深い足まわりなど乗ると感心させられる点が多々あるが、熟成されたWRX STIもなかなかのものだ。ドライブしてより楽しさを直感するのも、WRX STIのほうではないかと。
甲乙つけ難いところだが、ここはひとつ孤軍奮闘のWRX STIに軍配を上げたい。
■BRZ(2012年3月発売)
BMW2シリーズクーペが100点なら、BRZは92点


このクラスで貴重なFRスポーツ。価格で見ると対抗馬はロードスターくらいしかないので、アバルト124スパイダー、フェアレディZ、BMW2シリーズクーペあたりまで範囲を広げて考えてみた。
ぜんぜんタイプの違うクルマたちであり、それぞれ持ち味はあるなかで、採点した時に最高得点となるのは、むろん価格も高いが2シリーズだ。
まさしくFRのお手本のような意のままに操ることのできるハンドリングは、本当に楽しい。優れたトラクションとスタビリティと快適性を、何も無理することなく実現している。エントリーの220iでも動力性能は充分だ。
そのほかのモデルはいずれも大なり小なり何かが足りず、そのぶん点数としては低くなる。そんななかでは、一昨年のマイナーチェンジで大幅に改良されたBRZと86を、1点差で2位と3位としたい。
BRZが1点差で勝る理由は、本当に微妙なドライブフィールの違いと、内装色の選択肢を含むデザインの好みによる。改良を重ねて本当によくなった。
特に昨年発売されたSTIスポーツがすばらしく、既存モデルとは別物といえるほど。価格がそれほど高くないところもポイント高し。すでにBRZに乗っている人も買い換える価値があると思うほどだ。
■レヴォーグ(2014年6月発売)
アテンザワゴンが100点なら、レヴォーグは110点!!!


ワゴンというカテゴリー自体がSUVに押され気味ななかでも、レヴォーグはしっかり存在感を発揮している。登場からずっと安定して売れているのは、適度なサイズ感をはじめ、デザインや走行性能など高い商品性が受けているからにほかならない。そこは大いに評価してよいと思う。
実質的な前身となるかつての4代目レガシィツーリングワゴンも人気は高かったが、その高性能イメージをうまく受け継ぎつつも、欧州テイストをも感じさせるレヴォーグは、輸入車派をも振り向かせる力を持っているように思う。
そんなわけで、価格帯の近いところで、アテンザワゴン、ジェイド、輸入車ではゴルフヴァリアント、308SWあたりが有力なライバルとなりそう。なかでもアテンザはひとつ上のレガシィのクラスだが、価格帯が近いことから実際にもレヴォーグと比較してどちらかを購入する人は少なくないようだ。
サイズが大きいぶん室内も広く、マツダのフラッグシップらしくインテリアも上質に仕立てられていて、そこはアテンザに軍配だが、対するレヴォーグは、生まれながらにしてスポーティさと高性能イメージを確立しているところが強み。好調な販売は、それだけそこに共感を覚える人が多いからにほかならない。
■レガシィB4(2014年10月発売)
カムリが100点なら、レガシィB4は78点


日本ではセダンが不振でも、大半のメーカーがこのクラスのセダンをラインアップしている。世の中的には中堅クラスだが、スバルとマツダ(アテンザのこと)にとってはフラッグシップだ。
それでいて価格が控えめで、そのわりにはフラッグシップとしてできるだけ高級にしようとしたことは伝わってくるのだが、いかんせんB4はデザインが凡庸なのが惜しい。その点ではカムリやアテンザにだいぶ水をあけられている。
走りの質感も昨年のマイナーチェンジで大幅に改善されたが、ライバルがさらに先をいっているのは否めない。特に全面刷新した最新のカムリはかなりのものだ。フラッグシップが他社の中堅に負けているのはいかがなものか。
■レガシィアウトバック(2014年10月発売)
ゴルフオールトラックが100点なら、レガシィアウトバックは110点!!!


自ら開拓したカテゴリーの末裔だけに、さすがはよくできている。登場当初は走りがイマイチだったが、昨秋のマイナーチェンジで劇的によくなり、一気に評価が上がった。
対抗馬はあまり多くなく、メルセデスやアウディにもあるとはいえ価格が違いすぎるのでスルーするとして、ボルボV60クロスカントリーならフィナーレを飾る「クラシック」が500万円ちょいから買えるのだが、やや粗削りな乗り味やカーナビなどの装備に古さを感じるのは否めず。
また、ゴルフオールトラックは完成度も高く、なかなかの強敵なのだが、同等の価格でこの広さと高級感、高い悪路走破性を併せ持ったアウトバックのほうがトータルバリューの高さでは上回る。