■記念モデルにふさわしく、従来モデルからの進化の度合いが半端ではない!
それにしてもこのSF90ストラダーレほど、読むべき資料の多かったモデルはこの20年、見当たらない。日本での試乗を前にマラネッロ本社の開発陣とオンラインでのミーティングまで行われた。
ハイブリッドシステムを筆頭に、エンジンとトランスミッション、マルチマテリアル(主にアルミとカーボン)の軽量ボディ&シャシー、内外装のデザインとエアロダイナミクス、エネルギー管理を含んだビークルダイナミクス、そしてマンマシンインターフェースなど、すべてにわたって従来のV8ミドシップモデルから大幅な進化を果たしているからだ。
否、いみじくもマラネッロがこのクルマのことを「トップ・オブ・レンジ」と表現したように、SF90ストラダーレは単なるV8ミドシップモデルのハイブリッド進化版ではない。ひょっとすると伝統のV12+FR2シーターに代わってフラッグシップモデルになる可能性もあるのだから。
簡単に車両概要を復習しておこう。リアミドに4Lの改良版V8ツインターボエンジンを積み、新型8DCTとの間に電気モーターを一つ、フロントにも二つのモーターを備え、キャビンとエンジンとの間にバッテリーを積んだPHEVの跳ね馬である。e4WDであり、ミドシップモデルの四駆化は初。
大幅な改良を加えたV8エンジン単体の最高出力は780ps。これに3つの電気モーターを加えたシステム総合出力は1000psで、跳ね馬ロードカーとしては史上最高のスペックだ。
0→100km/h加速2.5秒、0→200km/h加速6.7秒も跳ね馬最速であり、かのフィオラノラップタイムでもラ フェラーリを上回るロードカー最速の1分19秒を記録した。と、これだけ聞かされたなら、マラネッロ教信者にとって、高額なお布施をしないという手はないだろう。
筆者も初めて実車を見た時、そのスタイリングもさることながら、エンジン搭載位置の低さに目を見張り、もうそれだけで欲しい! と思ったものだ(買えないけれど)。ミッションの重心が下がり、エンジン上部やターボチャージャーまわりも大幅な設計変更を受けたため、驚異の低重心が実現したのだ。
まだまだ紹介したいファクトは多いけれども、キリがない。そろそろ本題に移ろう。
■約25kmのEV走行が可能。効率重視のハイブリッドモードでも、公道では充分な性能だ
果たしてSF90ストラダーレはどんなマシンだったのか。販売比率で実に半分以上というアセット・フィオラーノ仕様に試乗した。専用のカーボンリアスポイラーやルーバー付きレキサンスクリーン、足回りを備えたサーキット走行もこなす仕様である。
ハンドル中央下に配されたスターターボタンを押すと、電子音が鳴った。時代を感じる。
その勢いでまずは電動ドライブを確かめよう。フロント2個のモーターのみでFF走行する。そう、ホンダNSXと同じだ。レンジは約25kmで、最高速は160km/hというから、早朝のガレージを出発し、高速道路に乗るまでくらいは静かなEVとして使えそう。
実際、その電動パフォーマンスは街中の流れもリードできるほどで、何の不満もない。跳ね馬マークを見つめながら無音のドライブ(正確にはエンジン音のしないドライブ)を楽しむ時代が来るなど、小さい頃からこのブランドに憧れてきた身としては感慨深い。
音のしないフェラーリなんて、と思われるかもしれないが、空気を縫うようにして走る感覚を一層楽しめる分、これはこれで面白いと思った。滑らかに走る喜び、とでも言おうか。爆音時代は終わろうとしているのだ。
ハイブリッドモードでは効率最優先で、フル電動も可能となるし、内燃機関も働く。すべてのモーターで回生エネルギーを回収する。この時点ではまだまだおとなしいハイブリッドスーパーカーだが、日本の公道上では充分な性能であることは間違いない。
ここまではまったく新しい乗り物感に満ちており、何ならこのままずっと走らせてもいいと思ったほどである。
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