自動運転技術はついに二輪車にも 転倒ゼロでストレス大幅低減!!【自律自動運転の未来 第23回】

■オートバイならではの問題点がある

 (1)のACCは四輪車でお馴染みの追従機能です。アクセルとブレーキをシステムが調整しながら、センサーが捉えた前走車と適正な車間距離を保って巡行します。

 ただしオートバイは圧倒的にMT車比率が高く、このARASもMT車を前提に設計されています。よって、下限速度は約30㎞/hであり停止までの制御は行なわれず、ギヤ段の変速もクラッチ操作を含めてライダーが行ないます。

 完全停止や停止保持、再発進までもシステムが行なう四輪車版ACCよりも支援度合いは低下しますが、それでも長距離走行時の身体的負担は大きく軽減。直線だけでなくカーブでもセンサーの認識エリア内に前走車が走行している場合、ACCは機能します。

 オートバイは車体を傾けてカーブを走る傾斜走行が特徴ですが、ボッシュARASはその傾斜走行に対応可能なミリ波レーダーセンサーを用いました。

 車体前後に一つずつ、計2つのミリ波レーダーを設置して車体前後を扇形で囲うようにセンシングを行ないます。オートバイ用に軽量化され、傾斜対応だけでなく振動にも強い独自の設計が施されています。

自動運転技術は協調が重要なのだが、まずは個々の車体にある程度以上の先進技術が組み込まれていることが前提となる
自動運転技術は協調が重要なのだが、まずは個々の車体にある程度以上の先進技術が組み込まれていることが前提となる

(2)の衝突予知警報は、前部のミリ波レーダー情報から、前走車との衝突可能性が高まった場合にディスプレイ表示などで危険を知らせる機能です。

 報知後、ライダーがそれに気づかず前走車に急接近したとしてもシステムによるブレーキ制御は行なわれません。あくまでもライダーにブレーキ操作や回避動作を促すだけに留まります。

 なぜシステムによる自動ブレーキ制御を行なわないのかといえば、ライダーは不意に訪れるシステムからの急制動(急ブレーキ)に対応しきれないからです。
また、オートバイはタンデム(2人乗車)走行している場合、1人乗りと比べて加速、減速、カーブ走行、低速走行などいずれも運動性能が大きく落ちることから、やはり急制動では不安定になりがちで転倒リスクが高まってしまいます。

(3)は自車の後側方から迫る車両を車体後部のミリ波レーダーで捉えて、それをディスプレイ表示などで報知し、ライダーに車線変更を抑制するよう伝えます。

 この機能も四輪車で普及しています。四輪車の場合は車線変更を行なおうとする逆側の前後ブレーキを緩く片効きさせる、またはステアリング操作に介入して車線変更を抑制するなど、車体に直接影響を及ぼす制御を行ないます。

 対してARASの場合は、やはり警報止まりで、実際の抑制はライダー自身に委ねられています。

■車車間通信でさらなる安全を

 交通コメンテーターである筆者は、1993年から全日本交通安全協会・2輪車安全運転推進委員会(現名称)の指導員を28年間、兼務しています。

 この間、四輪車と同じくオートバイの運動性能も大幅に向上しましたが、乗車方法の基礎に変わりはありません。転倒リスクが伴うオートバイでは「ニーグリップ」と呼ばれる乗車方法が重要です。

 ニーグリップとは、両足のふとももで燃料タンクまわりをグッと力を込めて挟み込み、同時に腹筋を緊張させます。反対に上半身は適度にリラックスさせて腕では路面からのショックを吸収しながら舵をとります。

 これに加えて視線を遠くにおくことで、歩くような速度でもふらつきにくく微速での車体安定性が高まり、またカーブでも安定した走行が可能です。

 つまりオートバイはライダー自身が車体の一部となって走る特性があるため、システムによる急制動にはじまる車体全体に影響を及ぼす制御は、ライダーにとっても大きな負担になるのです。

 また、オートバイにおけるステアリング操作へのシステム介入も同様の理由から現実的ではありません。また、こうした制御が不意に訪れるとなれば、時に先進安全技術を働かせたことで、却って危険な状態へと近づいてしまいます。

 ボッシュの調査によると、日本においてライダーが事故により死亡もしくは重傷となるリスクは、ドライバーの約10倍、欧州においては同じく約20倍も高いとのこと。

 今回のARASは、自動運転技術の要素技術とはいえ制御そのものは四輪車のADASと比較すれば程度は劣ります。ただし、それでもライダーにとってみればARASは有用です。

 とくに前述した(2)と(3)の機能によって、危険な状態がライダーへと事前に報知されるため、転倒、さらには死亡事故のリスクを大幅に減らすことができるからです。

 将来的に、ARASの社会的受容性が向上すれば、現状から一歩進んだライダーサポート機能が追加されることが予想できます。

 その一つが車々間通信技術を利用した早期警報システムの構築です。これにより日本における二輪車死亡事故の上位にくる交差点での右直事故や、見通しの悪い丁字路での接触事故などの減少に期待がもてます。

 さらに、路車間通信システムがオートバイにも転用されると、道路上で発生した突発的な事故や道路工事など、いつもと違う運転環境が迫っていることが余裕をもってライダーに伝えられます。

 いずれにしても、危険を1秒でも早くライダーに知らせ、ゆとりをもってライダー自身が対応する、この考え方を世間に浸透させることこそARAS実装の大きな意義であり目的です。

次ページは : ■自立運転で転ばないバイクを

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