新型アクアの最高燃費はヤリスHVに届かず! 超燃費競争はもう終わったのか?

■なぜ燃費競争をしなくなったのか?

燃費を稼ぐために燃料タンクの容量を減らす事例もある。マツダ2は大半のグレードが44Lだが、クリーンディーゼルの6速MT仕様は35Lに削って車重を1080kgに抑えている
燃費を稼ぐために燃料タンクの容量を減らす事例もある。マツダ2は大半のグレードが44Lだが、クリーンディーゼルの6速MT仕様は35Lに削って車重を1080kgに抑えている

 細かな燃費数値に対するこだわりが薄れた背景には、複数の理由がある。まずはエコカー減税がクルマ選びの指標となったから時から時間が経過して、ユーザーの関心も薄れてきたことだ。

 過去を振り返ると、2010~2015年頃は、燃費競争が激しかった。エコカー減税が減税率を高めたことで、購入時に納める税額が大幅に安くなって注目されたからだ。

 燃費の優れた車種を選ぶと、購入時の税額が下がり、買った後の燃料代も節約できる。そこで軽自動車の中には、1年間に2回も改良を行い、JC08モード燃費を段階的に改善する車種もあった。

 この時代には、わずか0.2km/Lでも、燃費数値を更新した。誤差の範囲で実用燃費にはほとんど影響ないが、この差で減税率が変わると、購入時に納める税額も安くなるからだ。

 燃費数値とエコカー減税に対する関心の高かった当時は、商品力の大切な要素で、ライバル車との販売競争にも影響を与えた。

 したがって、各メーカーとも燃費数値にこだわった。販売店からは「JC08モード燃費がライバル車と比べて0.5km/L劣ると、エコカー減税率が下がることもあって売れ行きに差が生じる」という意見が聞かれた。

ヤリスハイブリッドとフィットクロスターハイブリッドの実燃費を計測した(2020年実施)
ヤリスハイブリッドとフィットクロスターハイブリッドの実燃費を計測した(2020年実施)
ヤリスハイブリッドとフィットクロスターハイブリッドの実走行燃費テスト結果(2020年実施)
ヤリスハイブリッドとフィットクロスターハイブリッドの実走行燃費テスト結果(2020年実施)

 エコカー減税に該当することがクルマ選びの絶対条件になり、減税対象に入らない車種は、購入の候補にも入れてもらえない。特にエンジン排気量の割に車両重量の軽いセダンは、燃費数値自体は悪くなくても、減税対応では不利になりやすい。下降を開始した売れ行きをさらに下げて、今のセダンの車種削減に繋がる切っ掛けを作ってしまった。

 以上のようにエコカー減税の影響もあり、2010~2015年頃は、ユーザーの燃費性能に対する関心がきわめて高かった。

 しかし少し時間が経過すると、ユーザーが燃費数値と実用燃費の隔たりを指摘するようになった。当時のエンジンはJC08モード計測を重視してセッティングされ、計測時の運転は抜群の運転技量を誇るメーカーの担当者が行う、いわば特定のドライバーと特定の運転条件が重なった時だけ達成できる燃費数値だから、実用燃費との間に格差が生じるのも当然だった。SNSなどを介して、メーカーのウェブサイトに記載される燃費データを疑問視する意見が急速に拡散された。

 同時にエコカー減税に向けた関心も薄れてきた。「減税率にこだわって2万円を節約するより、好きな車種を選ぶ買い方がイイ」といった考え方が広まり始めた。

 その一方で2013年頃から、衝突被害軽減ブレーキが普及を開始した。クルマ選びの基準も、燃費性能とエコカー減税から、安全装備へ移り始めた。

■JC08モード燃費と実燃費に大きな乖離があった

JC08モードとWLTCモードの試験方法は大きく異なる。最高速度はWLTCモードが97.4km/h、JC08モードが81.6km/h(出典:国土交通省)
JC08モードとWLTCモードの試験方法は大きく異なる。最高速度はWLTCモードが97.4km/h、JC08モードが81.6km/h(出典:国土交通省)

 このような事情もあり、2016年以降は、フルモデルチェンジを行ってJC08モード燃費を悪化させる車種が登場している。

 例えば2017年に発売されたCX-5の2.5Lガソリンエンジン搭載車は、JC08モード燃費を従来型の15.2km/Lから14.8km/Lに下げた。同じ2017年に発売されたミライースも、売れ筋グレードのJC08モード燃費は、従来の35.2km/Lから34.2km/Lに変更されている。

 各メーカーの開発者に燃費数値が悪化した理由を尋ねると、「モード燃費を追求しても、お客様の利益にならない。商品やメーカーに対する不信感も招く。そこに気付いたので、モード燃費への対応を抑えるようになった」と説明された。

 2017年からは、新しい燃費計測方法として、今日使われるWLTCモード燃費も導入されている。この数値は従来のJC08モード燃費に比べて実際の燃費数値に近く、ユーザーがクルマを選ぶ時の参考にも適する。燃費競争の過熱状態が冷めると同時に、燃費の計測方法も改善されてきた。

 以上のように燃費数値に対するとらえ方は変化したが、関心が完全に薄れたわけではない。2010~2015年のような過剰な注目度が収まっただけで、今でもクルマ選びの大切な要素であり続ける。

次ページは : ■時代は「燃費競争」から「燃費協調」へ

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