■2010年の登場以降じわじわと失速
一般的にクルマの登録台数は、発売から時間が経過すると下降するが、逆に伸びる車種は優れた商品である証だ。市場の評価を着実に高め、ユーザーを獲得している。初代ワゴンRや初代フィットも、同様の売れ方であった。
この後、1998年には初代キューブが登場してマーチの売れ行きは少し下がるが、依然としてコンパクトカーの主力であり続けた。3代目は2002年に発売され、乗り替え需要も豊富だから、2003年には1か月平均で約1万台を登録している。
問題は2010年に発売された4代目の現行型だ。プラットフォームを刷新したが、コスト低減が著しく、操舵感や乗り心地の粗さが目立つ。シートの座り心地も良くない。後席の背もたれを前側に倒して荷室を拡大すると、シートと荷室床面の間に隙間ができて、3代目に比べると質感の低下が見受けられた。
ちなみに2010年頃に発売されたコンパクトカーには、質感に不満の伴う車種が多い。2008年に発生したリーマンショックによる経済不況の影響だ。先代パッソ(2010年)、最終型のヴィッツ(2010年)、先代アクア(2011年)、現行ミラージュ(2012年)などは、いずれも発売時点の造りが粗く、その後に改善を受けたが不満を解消できなかった。
日産は現行マーチの発売後、2012年には先代ノートを投入して、2016年になるとe-POWERも加えて売れ行きを伸ばした。そのためにマーチの存在感は、さらに薄れてしまう。2012年頃からは、ノートを含めて軽自動車やコンパクトカーも衝突被害軽減ブレーキを採用するようになったが、マーチは放置された。衝突被害軽減ブレーキを装着したのは2020年に入ってからだ。
このような冷遇もあり、マーチの売れ行きは低迷する。2021年1~7月の登録台数は、1か月平均で825台だ。前述の通り2000年代前半までのマーチは、1か月に1万台以上を登録することもあったから、今の売れ行きは10%以下に留まる
■マーチがなくなれば150~170万円の価格帯がぽっかり空く
そして現行ノートはe-POWERのみだから価格も高まった。先代ノートのノーマルエンジン車(純ガソリン仕様)を使うユーザーは、乗り替える車種を見つけにくい。現行ノートの価格は全グレードが200万円を上まわり、売れ筋のX(218万6800円)に、プロパイロットを含んだセットオプション(42万200円)とLEDヘッドランプ(9万9000円)を加えると、総額は270万6000円だ。先代ノートにノーマルエンジンを搭載したXは160万円以下だったから、大幅な価格上昇になってしまう。
そこで先代ノートのノーマルエンジン車から乗り替えるのに適した車種は、価格が同等か少し安いマーチとなる…はずだったが、売れ行きは若干伸びた程度だ。対前年比の伸長率は大きいが、1か月平均の登録台数は前述の825台と少ない。
日産の開発者は「先代ノートのお客様は、価格の安いデイズとマーチに約半分ずつ乗り替えている」というが、販売店は「内外装が上質で安全装備の水準も高いことからデイズを推奨している」と述べる。
この状態は、ユーザーに対して良心的とはいえない。ノートのノーマルエンジン車の代わりに軽自動車のデイズという選択では、峠道や高速道路を走る機会のあるユーザーにとって不満を伴うからだ。ヤリスやフィットと同様、衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能を含めて、150~170万円のコンパクトカーが必要だ。
ただし現行マーチは選びにくい。先に述べた通り商品力に不満があり、今では発売から10年を経過したから、選ぶ価値は大幅に薄れた。
そうなると現行ノートとプラットフォームを共通化した新型マーチの登場が期待される。現行ノートのプラットフォームは、ルノーが中心になって開発した経緯もあり、ボディ剛性が高く足まわりを柔軟に伸縮させる。操舵感も正確で、運転しやすく、車両との一体感を味わえるから走る楽しさも味わえる。
エンジンは直列3気筒1.2Lノーマルタイプを搭載して、コストを低減させると、衝突被害軽減ブレーキを装着して価格150~160万円に設定できる。今の日産はキューブやティーダを廃止しているので、マーチのフルモデルチェンジは必須条件だ。
それがダメならルノートゥインゴS(189万円)をベースに、価格を抑えたOEM車をマーチとして販売する方法もあるが、基本設計が古い。
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