■熱中症が運転に及ぼす影響
図「熱中症の4分類」にあるように「熱中症」には4種類あり、軽症の熱失神でも運転に大きな影響を及ぼすため、予防が極めて重要である。
熱失神
人体は血液の循環により体温の調節を行っている。体温が上がると放熱の効率を上げるため、皮膚の下にある血管が拡張し流れる血液の量が増える。体表面への血液の量が増えれば相対的に脳への血流が減るため、脳への十分な酸素の供給がなされなくなり、めまいや立ちくらみを起こしたり、意識を失うことがある。
熱疲労
著しく体温が上昇する場合は、血液循環に加え、汗をかくことによる体表面の水分の蒸発により効率よく体温を下げようとする。1時間に1L以上の汗をかく場合に、水分の補給が汗をかく量に追いつかなくなると、身体が脱水状態になり電解質の異常をきたす。このことで頭痛、全身倦怠感、悪心、嘔吐などの症状が現れる。
熱けいれん
大量に汗をかいた時、水分とともに電解質も失われる。その中で最も失いやすいものはナトリウム(塩分)である。ナトリウムには筋肉の収縮を調節する役割があるため、汗をかいた時に、塩分を補給せず、水分のみを補給して血液のナトリウム濃度が低下した場合、足、腕、腹部の筋肉に痛みを伴ったけいれんを引き起こすことがある。
熱射病
熱中症の最重症の状態。熱失神などに適切に対処しなければ、熱射病へと進行する。体温の更なる上昇のため身体の体温調整機能が破綻した状態になる。体温は細胞が破壊される温度にまで急速に上昇し、意識障害やショック状態、死に至るおそれがある。
トイレでチェック! 熱中症の重症度の見分け方
図の尿の色による判定を参考にトイレ休憩の度にチェックすることを習慣づけたい。熱疲労と熱射病の比較図にあるとおり、汗と尿が出ている間に対処すべきだ。肌が熱を帯びて乾燥している時は致命的な状態なので一刻を争う。
■環境面で注意すべきこと
熱中症に注意すべき環境とは気温だけではない。筋肉運動時には高い気温だけではなく、高い湿度のみの環境でも熱中症を発症する。冒頭で「高い高いは危険」と述べたが、温度、湿度の両方が高い時は最も危険で、温度、湿度のいずれかが高い時は、その次に危険ということだ。気温が低い場合も皮膚の湿り気が無くなるほど湿度が低い場合は体温調節機能に異常を来すことがある。
図「身長別の体内水分温度上昇の目安」にあるように、身長差により熱中症になりやすさの違いが大きいので、成人と同じ感覚で子供の状態をとらえてはならない。
成人、子供、犬の地面からの距離と水分の量の違いは、それぞれの鍋の大きさと水の量に例えられる。成人は65℃から70cmのところに45ℓの水を入れた鍋を持って立っているようなものなので、その水分が温まるまでには時間がかかる。子供の場合はその半分の近さで、3分の1の水分量しかないので、単純に計算すると成人の6倍のスピードで水分が加熱されてしまうことになる。犬の場合は毛皮で覆われていることもあり、その速度は30倍近くにもなる。
図「犬の熱中症」にあるとおり、愛犬を連れてドライブを楽しむ場合、犬が口を開けて激しく呼吸をしている時、犬の口元に手をかざし、犬が吐き出す息が熱を帯びている時は、吸気よりも呼気の方の温度が高いことを示している。
水分補給
水分不足を劇的に改善する切り札はORS「経口補水液」だ。ORSは飲ませるだけという誰でもできる簡便さからUnicefでも活用され、その説明では普通の水に比べて25倍の早さで体に吸収されると表現されている。安静時に飲むスポーツドリンクと比べても10倍速い。なお、身体が水分不足の時はスポーツドリンクの吸収率は水よりも悪くなることに注意したい。
図「水とORSの水分吸収の違い」にあるように、水は1時間あたり200mlが胃から吸収されるが、残りは大腸にて5時間後に吸収される。このため、熱中症の徴候が表れてから水を飲んでも手遅れになることがあるため、ORSを用いることが望ましい。ORSは図「ORSの作り方」のとおり、水1Lに塩4g、砂糖40gを混ぜることで簡単に作ることができる。
WHOでは「塩ひとつまみ、砂糖ひとつかみ」と教えているように、多少の誤差は影響がない。多量に糖分を含むため細菌の繁殖のおそれがあり、ORSは作り置きよりも、必要な時に直ちに作成できるように砂糖と塩を用意しておく方が衛生的である。既製品のORS以外は保存に適さない。
ORSは砂糖水なので、味がついていて飲みやすくするには、利尿作用がなく塩分が含まれているためオレンジジュースが最適だ。スポーツドリンクなどを用いる場合は製品ごとに異なるので、表「ORSの作り方」を参考に調整する。
ORSは座って飲める時にだけ飲ませる。寝ながら飲むと誤嚥をおこし肺に入ったり、吐き出すおそれがあるからだ。
スポーツドリンクは、筋肉量の多い成人が激しい運動をする前に飲むことが最適であるように成分が調整されている。水分補給の表にあるとおり、ORSもスポーツドリンクも目的に合わせて飲むものであり、最も重要なことは水分不足に陥らないことである。普段の水分補給としてミネラル分を含んだ麦茶が最適と言われるのはこうした理由による。
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