開発当初は想定していなかったリアサスペンションの秘密
現行のプリウスやC-HR、カローラスポーツやツーリングなどGA-Cプラットフォームを採用しているこれまでのモデルは、リアサスペンションにマルチリンク(トヨタはダブルウィッシュボーンと呼んでいる)を採用している。
このリアサスの秀逸な出来が、これまで燃費一本槍だったプリウスのハンドリングを激変させて、C-HRやカローラスポーツと、走りの楽しい派生モデルを誕生させてきた。
ところがカローラクロスの場合、ハイブリッドの4WDモデルは従来通りのマルチリンクサスだが、ガソリン車もハイブリッドもFF車はリアサスをTBA(トーションビームアクスル)へと変更しているのだ。
CAE(コンピュータによる数値化解析)などによって設計の最適化が進んで近年、TBAが見直されている傾向にあることはご存じだろう。
マツダがアクセラからマツダ3へとモデルチェンジした際、リアサスをマルチリンクからTBAへと変更し、乗り味を犠牲にすることなくコストの最適化や車両価格の抑制に貢献させている。しかし同一車種でリアサスが異なるというものではない。
これまで4WD車だけリアサスに独立懸架を採用してきた例は多いが、そういった構造的な問題ではなく、コストを優先してFF車のリアを作り直しているのだ。これは国産車では初めてのアプローチと言えるだろう。
VWがゴルフの廉価版と高性能版ではTBAとマルチリンクを使いわけているのと、まったく同じ手法と言えるが、GA-Cの開発当初には、このリアサスのTBA化は想定していなかったはずだ。
まず最高のプラットフォームを作って、それを様々なバリエーションモデルに展開していくのがTNGAの思想だったからだ。
フロント同様、リアサス回りもサブフレームを介してマウントされていることから、サブフレームを新設計すれば物理的には可能だが、足回りの形状がまったく異なるだけに支持剛性の確保と、理想的なホイールストロークの軌跡を実現するのは簡単ではない。
さらにC-HRはダンパーに独ザックス製を奢って、スポーティな乗り味を追求しているが、カローラクロスでは国産のKYB製とすることで部品調達コストも低減している。
KYB製ダンパーでもハンドリングを追求できることはカローラスポーツで実証済みだが、カローラクロスはしっかりしたハンドリング性能は確保しても乗り心地をマイルドにすることを優先しているようだ。
なお4WDモデルのリアサスについても、マルチリンクの各アームのピボット位置をSUV用に最適化しているという。これはC-HRでは実施されていなかったことで、最低地上高の少ないカローラクロスでわざわざ採用していたことを考えると、今後ビッグマイナーチェンジやモデルチェンジで、このジオメトリーをSUV系に採用していく可能性は高い。
TBAに関しても、他のカローラシリーズやGA-Cプラットフォームを採用している車種の低価格帯グレードには採用していくことになるだろう。今後電動化を進めるうえで、車体の開発コストはこれまで以上に圧縮されることになるはずだ。
そして現在のTNGAプラットフォームの完成度が高いことからも、大きな変更を避けて熟成されていく方向性になる可能性は高い。
こうした後の展開まで考えて、カローラクロスの開発には力を入れられていると見るのが正しいだろう。199.9万円という戦略的なプライスは市場に打って出るためのインパクトを与えるものだが、採算を度外視しているわけではなく、このクルマだけで開発コストを回収するつもりではないからこそ実現した構造であり、車両価格なのだ。
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