購入しない人っているの? なぜクルマのフロアマットは別売りなのか

購入しない人っているの? なぜクルマのフロアマットは別売りなのか

 フロアマットの装着率は90%以上と言われる。筆者がディーラー営業マンだった頃に、フロアマットが注文されていないクルマを納車した記憶は数台ほどだ。純正品を購入しなかったユーザーも、自身で社外品を購入・装着しており、フロアマットを装着せずに走っているクルマは、ほとんど見かけない。

 ほとんどのユーザーが購入・装着するフロアマットは、なぜオプション(別売)なのだろうか。フロアマットがオプションであり続ける理由を、販売現場での筆者の経験から紐解いていく。

文/佐々木 亘
写真/HONDA、AdobeStock(トビラ写真=Aleksandr Kondratov@AdobeStock)

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■クルマは1円でも安く作りたい自動車メーカー

ホンダ ヴェゼルのフロアマット。クルマを少しでも安く作りたいメーカーにとっては、フロアマットは標準装備せずにおきたいもののひとつだ
ホンダ ヴェゼルのフロアマット。クルマを少しでも安く作りたいメーカーにとっては、フロアマットは標準装備せずにおきたいもののひとつだ

 一部の超高級車を除けば、クルマは1円でも安く作りたいというのがメーカーの本音である。自動車は、工業製品の中でも随一のコストカットが行われているのだ。

 できるだけ無駄な装備は省き、法規上で認められる最低限のラインで、完成車を作り出す。しかし、近年では予防安全装備の装着義務化が進み、オプション設定だった装備を標準装備せざるを得ない状況となっている。1円でも安いクルマを作りたいメーカーとしては、厳しい状況だ。

 フロアマットは販売価格で2万円~3万円であり、1円・1銭単位でコストカットしている新車の製造現場において、標準装備したくないものの一つだ。標準装備すると、ユーザーの選択の自由を奪うという見方もあるから、メーカーが進んでフロアマットの標準装備を行うとは考えにくいのである。

■原価が安く工賃がかからないから、商談の材料に使える

そこそこの金額なうえに工賃もかからないフロアマットは、商談時の値引き交渉のうえで大きな武器になる(naka@AdobeStock)
そこそこの金額なうえに工賃もかからないフロアマットは、商談時の値引き交渉のうえで大きな武器になる(naka@AdobeStock)

 「フロアマットはサービスします。」読者の皆さんが、新車を購入する際に、営業マンからよく聞くワードの一つではないだろうか。

 フロアマットはサービス(プレゼント)をするのに、都合のいいオプションなのだ。販売価格に対しての原価が、他のオプションよりも低く、装着は営業マンだけでできる。金額もそれなりで、実質的な値引きの効果も大きいから、商売上の大きな武器となるのだ。

 金額が同程度のオプションを比べてみよう。1つは、フロアマット(デラックスタイプ)で20,900円、作業時間は0Hである。もう1つはセンターロアイルミネーションで12,100円、1.0Hの作業時間が必要となる。工賃を含めた総額は18,000円程度だ。

 この二つを比べた時に、営業マンがどちらをプレゼント(値引き)として選ぶかというと、圧倒的にフロアマットである。金額が2,000円安いから、値引きに渋い営業マンはイルミネーションを選ぶと思うかもしれないが、工場での作業が必要になる用品を、プレゼントにはしたくない。

 ディーラーオプションであるフロアマットは、営業マンが商売を円滑に進めるための七つ道具のようなものだ。フロアマットが標準装備されてしまうと、商売道具を失うことになる。販売店の営業マンは、フロアマットの標準装備を望んではいないのだ。

■フロアマットとETC、標準装備されないのは同じ理由?

フロアマットと同じくETCも販売店にとって大きな利益となる。これらを標準装備にしてしまうと販売店からの反発は避けられないだろう(moonrise@AdobeStock)
フロアマットと同じくETCも販売店にとって大きな利益となる。これらを標準装備にしてしまうと販売店からの反発は避けられないだろう(moonrise@AdobeStock)

 フロアマットが何十年も別売りである最大の理由は、フロアマットが販売店装着オプション(ディーラーオプション)であるからだ。

 新車では、車両本体価格とメーカーオプションに、自動車メーカーの利益が大きく含まれる。販売店の利益も少しはあるが、その比率は圧倒的にメーカーの方が多い。

 対して、販売店装着オプションは、メーカーよりも販売店の利益が大きくなるようになっている。このように、メーカーオプションとディーラーオプションには、大きな違いがあるのだ。

 特に装着率が高い、フロアマット・サイドバイザー・ナンバーフレーム・ボディコーティングは、販売店の収益性が高いオプションの代表例である。これらがメーカーオプション、ひいてはメーカー標準装備となってしまうと、販売店の経営が苦しくなっていく。

 道路交通法改正などで、製造段階から機能を組み込むことが義務化されれば別だが、基本的に販売店装着オプションが、メーカーオプションや標準装備に変わることは少ない。

 実際にメーカーオプションや標準装備になった元ディーラーオプションを考えると、ここ10年の実例ではコーナーセンサーくらいしか挙がらない。

 フロアマットもリモコンエンジンスターターも、ナビやETCに至るまで販売店オプションの売れ筋であり、収益の柱を、メーカーがやみくもに奪うとなれば、販売店からの反発は必至である。

 フロアマットは、ユーザーの好みに合わせて選べるようにオプションにしてあるという理由は一理あるが、理由はそれだけではないことが、お分かりいただけたのではないだろうか。

 クルマは、メーカーから直接購入するものではなく、販売店を経由して、ユーザーに届く。この仕組みが、フロアマットを標準装備にしない(できない)理由になっているのだ。クルマの販売形態が大転換を起こさない限り、フロアマットは、今後も別売りであり続けるだろう。

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