■伸びる人気車種の販売台数
全店が全車を扱うと、人気車は売れゆきをさらに伸ばす。例えばネッツ店では、以前はアルファードの姉妹車となるヴェルファイアが専売車種だった。付き合いのある顧客が「次はアルファードが欲しい」といっても、トヨペット店に取られては困るから、ヴェルファイアを買うように好条件を提示して説得した。
ところが、今は全店でアルファードが好調に売られ、ネッツ店でも「かつての専売車種だったヴェルファイアからアルファードに乗り替えるお客様が増えた」という。全店が全車を扱えば、もはやユーザーを引き止める理由はなく、人気車が売れゆきを伸ばす。
その結果、販売体制を変更した後の2020年7~12月の1カ月の平均登録台数は、アルファードが約9000台で、ヴェルファイアは約1200台であった。この時点で7倍以上の差が開いている。さらに2021年4月の改良では、ヴェルファイアのグレード数を大幅に減らしたから、直近となる2021年8月の登録台数は、アルファードが8964台でヴェルファイアは約300台だ。30倍近い販売格差に至った。
同様の理由で、ヤリス、ヤリスクロス、ルーミー、ハリアーなどは、アルファードと併せて国内販売ランキングの上位に喰い込む。
■非「人気車」は、低迷度合いがより明確に
逆に人気に陰りが見えていたトヨタ車は、さらに低迷している。プリウス(αとPHVを除く)は、2021年1~8月における1カ月の平均登録台数が約3700台だった。全店が全車を扱う前の2019年には、1カ月の平均が8700台だから、プリウスの売れゆきは半減した。
2021年はコロナ禍の影響で苦戦するが、そこを差し引いても、販売の下降が大きい。
クラウンも2019年の1カ月平均は約3000台だったが、2021年は2000台に留まる。さらにプレミオ&アリオン、プリウスα、ポルテ&スペイドは、全店が全車を扱う体制に移行してから販売を終えた。
このように販売体制の変更で、トヨタ車同士の販売格差が拡大され、存続させる車種と廃止できる車種が明らかになった。トヨタの全店が全車を扱う体制に移行した目的のひとつも、この点にある。
販売系列のために作られた姉妹車を含めて、国内で売られるトヨタ車の車種数を減らすことだ。エスクァイアの生産終了も決まり、ヴェルファイアもおそらく廃止されるので、車種数を削減する目的はかなり達成されている。
販売店や販売会社同士の競争が激しくなった結果、店舗数も減っている。トヨタの店舗数はレクサスを除いても2010年頃には約5100店舗に達していたが、今は4600店舗だ。全店が全車を扱うと、ユーザーや販売店にとって便利な面もあるが、本当の目的はそこではない。
販売網から車種数まで、リストラを幅広く進めることだ。
■メーカーにかかわらずこの格差現象は起きている
この流れは、他メーカーの動向を見れば明らかだ。日産もかつては、日産店/モーター店/サニー店/チェリー店/プリンス店という具合に販売系列を揃え、専売車種も用意していた。それが2000年頃に全店が全車を扱う体制に変わり、2000年代の後半からはすべての店舗が同じデザインになった。2000年代の前半には、日産の販売店は全国に約3000カ所だったが、今は2000カ所少々だ。
ホンダもアコードやレジェンドを扱うクリオ店、インテグラやプレリュードのベルノ店、シビックや軽自動車のプリモ店を用意したが、2006年からホンダカーズに移行して全店が全車を扱うようになった。
日産とホンダは2010年頃までは車種を豊富に揃えたが、全店が全車を扱う体制に変わり、車種数を減らした。特に日産は著しく、設計の古い車種が目立つ。そしてホンダを含め、車種ごとの販売格差が激しい。
日産の場合は、ルークスやデイズといった軽自動車の販売台数が、国内で新車として売られる日産車の約40%を占める。そこにセレナとノート(オーラを含む)を加えると、国内で販売される日産車の70%を超える。
ホンダも同様で、N-BOXやN-WGNなどの軽自動車比率が56%になり、そこにフィット、フリード、ヴェゼルを加えると、国内で売られるホンダ車の85%に達する。
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