■フリードVSシエンタ 販売合戦の足跡
まずフリードが発売の翌年となる2017年にシエンタよりも多く売られながら、2018年に登録台数を月平均で1690台も下げた理由を考える。
フリードの販売減少には、2017年9月に実施されたN-BOXのフルモデルチェンジが影響している。現行型になったN-BOXは好調に売れて、2018年の前半には、前年の1.2倍が届け出された。
ホンダの販売店によると「軽自動車のN-BOXでは、フリードやフィットなどのコンパクトな小型車から乗り替えるお客様も多い」とのことで、フリードは新型になったN-BOXに少なからず顧客を奪われた。そこに発売から時間を経過したことによる販売減少も加わり、フリードは2018年の登録台数を大幅に下げた。
そして2019年になると、シエンタは月平均で9000台以上も登録された。特に2019年の8月と9月は、前年の1.6~1.9倍に達して、小型/普通車の登録台数1位となった。前年のマイナーチェンジでは2列シート仕様などが追加され、ノアなどからの乗り替えも進んで、さらに売れ行きを伸ばしている。
しかし、この好調な売れ行きは長く続かず、2020年にはフリードに抜き返されてしまう。2020年の月別登録台数を見ると、特に5月以降の落ち込みが激しい。前年に多く売られただけに、登録台数を半減させた月も多い。
この背景には、2020年2月に実施されたヤリスの発売も影響を与えている。ヤリスはコンパクトカーだから、シエンタとは直接競争しないが、価格の割安なトヨタ車に対する関心はヤリスに向く。販売店もヤリスで多忙になり、シエンタの販売力は削がれてしまう。
■2019年に実施されたマイナーチェンジが追い風に
その一方でフリードは、2019年10月に規模が比較的大きなマイナーチェンジを実施して、内外装のデザイン、安全装備などを改善した。SUV風のクロスターも追加している。このマイナーチェンジでフリードの売れ行きが目立って増えたわけではないが、販売の低下を抑える役割を果たした。そして2020年、2021年ともに、フリードの売れ行きがシエンタを若干上まわっている。
2018年には売れ行きを大きく下げて、2019年にはシエンタにも大差を付けられたフリードが、なぜ2020年には販売下降を食い止めてシエンタを上まわったのか。最近のフリードの動向を販売店に尋ねると、以下のように返答された。
「フリードのお客様は、若い人達から高齢の方まで幅広い。特に最近はコロナ禍の影響で、密集を避けるために日帰りのキャンプなどに出かけるお客様が増えた」
「この影響もあり、2列シートのフリードプラスを含めて、販売が好調に推移している。手軽に買える車内の広いクルマとして、ホンダにはN-BOXもあるが、小型車ではフリードが注目されている」
このほかステップワゴンとフィットの不人気もある。2021年1~9月の登録台数は、フリードが月平均で5877台だが、ステップワゴンは3330台だから約半数だ。ホンダのミニバン需要がフリードに集まって売れ行きを伸ばした。
またコンパクトな車種としてはフィットも低調で、2021年1~9月の月平均は4760台だ。フリードよりも価格が安いのに、80%しか売れていない。フリードは人気が伸び悩むステップワゴンとフィットの需要を吸収している。
その点でトヨタでは、ヴォクシーが堅調で、今はシエンタよりも登録台数が多い。トヨタの販売店では以下のように説明した。
「シエンタはスライドドアを備えたコンパクトな車種として根強い人気があるが、3列シートが不要でルーミーに乗り替えるお客様も増えた。また荷物を積めるクルマとして、豊富にそろったコンパクトSUVやワゴンのカローラツーリングが選ばれることもある」
トヨタでは2019年9月にカローラツーリング、11月にライズ、2020年8月にヤリスクロスを投入した。いずれもボディがコンパクトで荷物を積みやすく、価格が割安だ。シエンタの需要がこれらのトヨタ車に奪われた面もある。
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