ゼロミッション共同宣言の背景に何がある?
そもそも、なぜこのタイミングでこうした宣言が出てきたのだろうか?
背景にあるのは、欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)が2019年12月に公表した「欧州グリーンディール政策」だ。これは2050年までに、欧州でのカーボンニュートラルを実現するものだ。
改めて、カーボンニュートラルとは、地球温暖化を防ぎ、地球環境を維持することを目的とし、社会全体で排出する温室効果ガスの二酸化炭素量を削減し、森林などが吸収する二酸化炭素量と理論上で相殺し、実質的に二酸化炭素排出量をゼロにするという考え方だ。
そのうえで、ECは2021年7月に欧州グリーンディール政策の中間報告として、2035年までに欧州のなかでの販売する新車100%をZEVとする方針を示した。その8日後には、メルセデス・ベンツが「市場環境が整えば、2030年までにグローバルで全車ZEV化する」と発表している。
ドイツといえば、長年に渡り世界の自動車産業界を技術面でリードしてきた国であり、ジャーマン3(ダイムラー/メルセデス・ベンツ、BMW、VWグループ)や、大手部品メーカーのボッシュとコンチネンタルによる連携が進んできた歴史がある。それが、今回のCOP26での宣言では、メルセデス・ベンツのみが署名するという異様な光景となった。
では、これから先の世の中はどうなっていくのだろうか?
まず、国や地域については、各行政府がすでに公表している、またはこれから新規策定して公表する環境関連の施策のなかに2035年、または2040年を目途としたロードマップを描くことになるだろう。
メーカー個社としては、メルセデス・ベンツの2030年全車ZEV化宣言など、EVシフトに向けた目標年を改めて強調し、そうしたロードマップに従った研究開発と販売計画が具体化していくことになる。
また、アメリカの場合、連邦政府と州などの地方政府の方針がすれ違うという、1990年にカリフォルニア州がZEV法を施行してからの歴史を、再び繰り返すことになるのだろうか?
米トランプ前政権(共和党)では、連邦政府とカリフォルニア州によるZEVのダブルスタンダードを解消し、連邦政府が主導権を握るとして、そのまえのオバマ前政権(民主党)の政策を根底から覆すような動きがあった。そして再び、バイデン政権(民主党)となったことで、今回のCOP26での宣言署名のように、国と州のZEVダブルスタンダードが維持されたままになる可能性もある。
要するに、国連の場でグローバルでの宣言を目指した今回の一件は結局、国や地域でバラバラの体制がしばらく続くという状況を表沙汰にしたにすぎない。
さあ、どうする日本の自動車業界
だからといって、日本は自動車工業会がこれまで主張してきた「ハイブリッド車や、水素、合成燃料など多様な方法を、国や地域のインフラの状況に合わせて段階的に電動化を進める」といった正攻法だけでは、これから先は生き残っていけない。
COP26での世界リーダーズ・サミットで岸田文雄首相は「日本は、世界の必需品である自動車のカーボンニュートラルの実現に向けて、あらゆる技術の選択肢を追及する」とコメントした。それに合わせて、「2兆円のグリーンイノベーション基金を活用し、EV普及のカギを握る次世代電池、モーター、そして水素や合成燃料の開発を進める」と具体的な数値も示した。
まず、日本政府がこうした基本方針を示したうえで、外交という交渉の舞台で、日本の自動車メーカーと国が連携し、これから先の極めて厳しい戦いに挑まなければならない。
日本自動車工業会は2021年11月18日、定例記者会見のなかで豊田章男会長の3期連続会長就任と、ホンダ、日産、スズキそれぞれの社長を副会長に加えた新体制を発表した。
豊田会長は、COP26で2040年ZEV化宣言で国やメーカーの意向が大きく分かれたことについて「世界120カ国以上が2050年(カーボンニュートラル)に向けて大変前向きな議論をしたことを歓迎する」としたうえで、「(先進国による)2035年ZEVコミットメントが(グローバルでの)一部(の国や地域)にとどまったことは、日本政府の現実的な選択肢だ」という見解を示した。
また、ヤマハ社長で自工会の日高祥博副会長は「国や地域で、様々な政治が動いている。個社では(四輪も二輪も)欧州からの流れに太刀打ちできない。(メーカー間の)協調領域を踏まえて『日の丸で戦っていこう』」と決意の弁を述べた。
日本の産業界は、地政学(国際政治)の観点での勝負意識が甘いと言われて久しい。COP26を機に本格化したEV化バトルに対し、日本メーカー各社はこれから賢く戦っていく必要がある。
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