■トヨタの平均年収は大手自動車メーカーの中でもずば抜けて高いのが実態
だが、ここで疑問が起こる。トヨタの賃金は果たして高いのか安いのか。先に結論から言えば、自動車業界では文字どおり最高ランクである。昨年度の組合員平均年収(ボーナス、残業手当などを含む支給額)は平均年齢40歳で858万円。
大手完成車メーカーとしてはトップで、2位はホンダの798万円、3位は日産自動車の796万円。平均年齢はホンダが44.9歳に対して日産は41.6歳なので、実質的には日産のほうが上と言えるが、両社ともトヨタとは単純平均で60万円もの格差がある。
この3社を見るかぎりでは、自動車業界の年収は決して低いほうではない。そもそも組合員平均年収が800万円クラスは上場企業のなかでは5%に過ぎず、トヨタ傘下の日野自動車にしても620万円で、上場企業の平均年収の600万円強を上回っている。
■世界的な混迷が続いた影響で、この10年実質年収は現状維持が精一杯だった
ところが、リーマンショック前と比較すると「懐具合」はガラリと変わってくる。2007年度のトヨタの年間平均給与は829万円。これは昨年度に比べると29万円低いが、この当時は平均年齢が37.1歳と、現在より3歳ほど若かった。さらに、物価の変動などを考慮すると、過去13年間、現状維持が精一杯だったと言える。
では、同じ期間で他メーカーはどう変わったのだろうか。大きく上がったのは日産(+83万円)、いすゞ(+49万円)。一方、大きく下がったのはマツダ(-86万円)の1社のみ。ほかはプラスマイナス30万円以内といったところで、平均年収は上昇している。トヨタは伸び率こそ少なかったものの、けん引役にはなれていたわけだ。
世間並以上であれば「もう充分に高い給与をもらえているから満足」という声も聞こえてきそうだが、上には上がいる。外資系はともかく、国内でも金融、製薬、海運業、商社、マスコミなど自動車業界より高給取りの業界や企業は数多い。
■今、求められるのは個人や法人に適正な利益の分配が行われる仕組み作りだ
例えば、一時経営不振に陥ったソニーは1044万円、日立製作所が890万円、食品の味の素は997万円など。業界盟主がしっかりしているセクターでは押しなべて高収入である。逆に悲惨なのはトヨタを特許侵害で訴えた日本製鉄で、コロナの感染拡大で減産による残業カットなどの特殊事情はあるものの平均年収は500万円に届かない。
鉄鋼業界のみならず金属業界も全般に賃金水準は低いままである。さらに、日本の自動車部品メーカーも全般的に採算性が悪化しており、給与水準もかつてはトヨタより高かったデンソーが721万円に急落。ほかの下請けの部品会社もジリジリと下がっている企業が少なくない。
折しもトヨタの豊田章男社長は、会長を務める日本自動車工業会を通じて「自動車業界に携わる550万人が一丸となって日本を元気にする」という熱いメッセージを発信中で、完成車メーカーだけが高水準というのでは意味がない。
こうしてみると、トヨタはまだまだ自動車業界の賃上げでもリード役を務める必要があるだろう。岸田首相は給与だけでなく、企業間の取引でも利益を公正に分配することを求めている。上流企業だけが儲かっても国民の平均的な暮らしはよくならないからだ。トヨタの役割はその点でもますます重要になっている。
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