トヨタ労組が2022年春闘で、全組合平均での賃上げを要求する方式を廃止することになりそうだ。職種や職位ごとに標準的な賃上げ要求額を示す方向に転換し、組合員には賃上げ水準をわかりやすくするのが狙いとみられるが、2018年からトヨタは経営側が具体的なベア額の公表をやめるなど、春闘相場の旗振り役から離れていく流れを強めていたことが背景にある。
こうなると、過去の賃上げ要求との比較ができなくなり、国内製造業最大手となるトヨタの春闘動向が不透明になりそうな気配。そこで、そもそもトヨタの年収は海外メーカーと比べ、その実力からして高いのか、安いのだろうか?
文/福田俊之
写真/トヨタ、日産、ホンダ、デンソー、日本製鉄、AdobeStock、首相官邸
【画像ギャラリー】トヨタ労組発、春闘の在り方見直しの議論が今後進むのか?(10枚)画像ギャラリー■トヨタ労組「平均賃金」要求廃止の波紋
コロナ禍を機ににわかに話題にのぼることが多くなった「日本の貧困化」論。「そんな馬鹿な」と思う人も多いことだろうが、1世帯あたりの平均年収は1994年のピークから100万円以上下落している。
一方、税や保険料などの負担は右肩上がり。国民の生活事情は気のせいではなく、確実に悪化しているのだ。
このままでは若者の婚姻率は低いまま、もちろんクルマをはじめとする耐久消費財の販売もジリ貧になることは避けられない。成長と分配の好循環を実現する「新しい資本主義」を提唱する岸田文雄首相としても、この状況を指をくわえて見ているわけにはいかないようで、支持率を上げるためにも、所得を上げることは必須だ。
2022年度税制改正大綱では賃上げした企業の法人税を減税する優遇税制を拡大する方針を打ち出すとともに、春闘での「3%賃上げ」を要請している。
3%の収入増は結構大きい。あくまで単純計算だが、年収500万円なら15万円、800万円なら24万円。サラリーマンの給料は 俗に「奉仕料」とか「我慢料」とも言われるように、ベースアップ(ベア)は、社員のモチベーションの向上につながる。
■トヨタ労組の打ち出した「全組合員一律賃上げ要求の取り止め方針」の衝撃
ところが、その賃上げムーブメントに冷水をかけるような話が労働組合の側から飛び出した。トヨタ自動車の労働組合が2022年春闘から「組合員平均」を基準として全組合員一律での賃上げ要求をやめる方針を固めたのだ。
トヨタといえば自動車や電機など製造業における春闘のベンチマーク企業。多くの企業の労組がトヨタを目安にして「ウチもこのくらいなら」と要求額を決めてきた。そのトヨタが一律をやめて職種や階級別に要求を細分化させると、総合的な要求額はどのくらいなのかが不透明になる。
ライバルメーカーの労組幹部は「廃止する意図がよくわからないが、一律的な要求から脱却する動きが広がれば、賃上げのブレーキになるかも」と首を傾げる。
賃上げトレンドに逆行することにもなりかねないトヨタ労組の春闘方針の変更。先の衆院選ではトヨタ労組出身の無所属の野党系議員が突如、出馬を断念。与野党との対立を避けるため組織内候補の擁立も見送るなど、中央労働団体の連合や政界と一定の距離を置く動きも見られた。
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