レクサス高輪での不正車検問題発覚から半年近くが経過する。この問題発生以降、自動車ディーラーに勤める整備士の処遇が、話題にあがることが増えた。
クルマは買ってそのまま何年も乗れるものではない。適切なタイミングでの整備が必要であり、整備を行う自動車整備士たちは、日本の自動車産業を根底から支えている功労者なのである。
しかし、今の自動車整備士が置かれている立場は、お世辞にもいいものとは言えない。この現状をどう変えていけばいいのだろうか。本稿では、長年にわたり自動車整備士と一緒に仕事をしてきた筆者が、整備士の地位向上を図るための具体的な施策を考え、提案していく。
文/佐々木 亘
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整備士の業務実態を正確に把握すべき
厚生労働省が発表する賃金構造基本統計調査によると、整備士の平均税込年収は約450万円だ。この金額は、整備士業に就く平均年齢44.2歳、平均勤続年数15.9年の人が、整備士の労働実態として標準的と考えられている、所定内労働時間167時間/月、超過実労働時間6時間/月という働き方をした前提で計算されている。
筆者がこの標準的な労働実態を見たときに、実際の現場で起こっていることとは大きく懸け離れているように感じた。特に超過実労働時間は、実態の5分の1以下になっていると思う。
自動車整備士の1日の仕事は、朝9時~9時半のお店のオープンと同時に始まる。次々と入ってくるクルマを整備しながら、お昼休憩の1時間を挟み、閉店時間である夜6時~7時頃まで整備を続けるのだ。
これだけで労働時間は8時間となり、これ以降の作業は「超過勤務」つまり残業となる。皆さんも、近隣のディーラー整備工場を、夜に見に行ってほしい。店舗ショールームの明かりが消えても、整備工場は煌々と照らされたまま、夜8時ごろまで動いていると思う。毎日の残業が2時間近くになるのは特別なことではない。
毎日2時間程度の超過勤務を週に5日間、4週にわたって行っただけで、超過勤務時間は40時間になるはずだが、厚労省のデータでは、6時間しか残業をしていないことになっている。残りの34時間はどこへいってしまったのだろうか。
整備士の処遇改善問題には、正確な仕事の実情把握が必要だ。ここから目を背けてしまえば、事態の改善など夢のまた夢である。
今、注力すべきは、売る力ではなくみる力
残業を減らし、体力的にも精神的にもキツイ労働を減らすためには、解決しなければならない構造的な問題が複数ある。そのなかでも、マンパワー・ハードの問題、リコールに対する問題の2つは、今すぐにでも対策を進められるものだ。
多くの販売店にいえることだが、管理顧客数に対して、整備士の数が足りていない。さらには店舗設備、特に整備工場のストール数の不足が顕著である。
筆者の経験談だが、管理顧客数が1,500件を超える店舗で、整備士が4名、ストール数は検査ラインを除いて3本だった。高級車を取扱い、丁寧な顧客対応を売りにする販売店でこの数字だ。
例えば、点検だけで年間に4000件以上、300日程度の営業日数でこなしていく。計算上は1日当たり13台だが、仕事はそれだけではない。点検以外の整備、積雪地ではタイヤ交換、保証整備やリコール対応など、仕事は山ほどある。重い作業は後回しになり、残業が常態化する。整備工場は日々パンク状態だ。
こうした整備車両の渋滞緩和策が、第一に必要だ。整備士を増やし、工場のストール数の拡大に動くべきである。
整備だけを集中的に行う店舗を作るなど、従来の店舗運営形態を抜本的に見直す時期である。今、自動車ディーラーに足りないのは、クルマを売る力ではなく、クルマをみる力だ。
また、販売店の仕事に大きな負荷をかけるのがリコールだ。リコール対応を行う場合、メーカーから整備士を派遣し、マンパワーを増やす支援を積極的に行うべきであろう。 メーカーが発表するリコールだが、実質的な修理作業は販売店に丸投げだ。メーカーは、しっかりと修理・回収するところまで行動を広げ、販売店にだけ負荷をかける今のやり方を変えて欲しい。
コメント
コメントの使い方今更ですね
求人見てると未だに若者を使い潰すことしか考えてなくて危機感ゼロでなんともならないでしょう