■欧州の水準を例に取れば総じて所得は高いが、職種による格差もまた大きい
ちなみに海外はどうだろうか。国によって給与のカウント方法が異なるのに加え、年齢ではなく業務内容で給与が決まるため単純比較ができないが、例えば欧州の場合、大学まで無料、手厚い年金などのための社会保障費を引かれる前のグロス所得は平均でおおむね10万ユーロ(約1300万円)。
業績はメーカーによって悲喜こもごもだが、半社会主義的な時代が長く続いたためか、メーカー間の格差が非常に小さく、大手部品メーカーも完成車メーカーと変わらない待遇である。
ただし、職種による格差は日本と比較にならないほど大きい。情報通信エンジニアやデザイナー、企業の資金をやり繰りする財務などは仕事のレベルがちょっと上がるだけで2000万円が視野に入るのに対し、事務職やサービス部門は日本より低い場合もある。まさに職種別、階級別の先輩である。
■トヨタ労組の動向は日本型雇用の変革? 産業全体への影響を考慮したカイゼンも求む!
トヨタの労組が職種別、階級別に細かく要望を出す方式に春闘のポリシーを変更するのは、見方によっては欧米方式への変化を志向しているとも思える。が、年功序列、終身雇用という日本の労働慣行を変えないまま職種別、階級別の春闘に変更することはリスクも大きい。
近年は、若年層の間では職種別採用でもないのに配属先次第で出世の可能性に大きな格差が出てしまうことを指す「配属ガチャ」などという言葉も登場しているという。
昨今、豊田社長は「お国のため」という言葉をよく使うが、もともとトヨタは財界活動など世の中のリーダー役を務めるのを嫌う風土があった。「愚直」や「謙虚」を美徳とも評する一方、トヨタの気質は「三河モンロー主義」などと揶揄されていた。
すでに、トヨタの労使交渉では労組側がベア要求額だけでなく、要求の有無も非公表にしている。もちろん、交渉の過程で公表する義務はなく、「別に春闘のリーダーでも何でもない」と労使協調路線で我が道を行く自由もある。
しかし、それでは労組の存在感は失われて毎月給料から組合費を天引きされる社員のなかには不満の声が上がるほか、春闘のリーダー役からの事実上の降板の影響はトヨタ一社にとどまらない可能性もある。
依然として新型コロナ禍の先ゆきの不透明感は拭えないなか、デジタル化、脱炭素の実現に向けた働き方改革は待ったなしとはいえ、現時点で「脱ベア」「脱一律」の動きを加速させることが世の中の人々に元気をもたらすことになるのか。
トヨタ式春闘の改革が実際に自動車業界、さらに産業界全体にどう影響してくるかは未知数だが、万が一、その過程で日本経済に悪影響が及ぶようなことになった時には、なりふり構わず、速やかにお家芸の「カイゼン」をしていくべきであろう。
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