コロナ禍で売りたくても新車が売れない!? 新車ディーラーが中古車販売を続々と手がけるワケ

 このコロナ禍で受注した新車の納期が大幅に遅れて、販売店各社は頭を抱えているが、そのひとつの活路として中古車の販売を手がける新車ディーラーが目立っている。

 例えば、首都圏にあるトヨタ系列店のショールームには「認定中古車」と称してクラウン、カムリ、ハリアーなどの高年式中古車の展示販売をしており、ダイハツやスズキの店舗に出向くと「新車ですか、それとも中古車ですか」といった営業マンに問いかけられるのだとか。

 マツダ、スバル、三菱、スズキ、ダイハツなどの各社は新車の店舗の敷地内に中古車展示場も併設し、新車、中古車を同じ営業マンが販売しているところも目立って多くなっているとのことで、そのあたりの事情についても調査した。

文/萩原文博
写真/トヨタ、ホンダ、ベストカー編集部、AdobeStock(タイトル画像xiaosan@AdobeStock)

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■なぜ新車ディーラーが中古車を売るのか?

 都内の主要国道をクルマで走行していると、国産メーカーの大きなディーラーがあった。登場したばかりの新車ばかりが展示されていると思いきや、プライスボードがフロントガラスのなかに置かれた中古車が同じ敷地内に展示されているのだ。

 かつて新車ディーラーとメーカー系の中古車販売店は近くに立地していることはあったが、新車ディーラーが中古車を販売するということは考えられないことだった。

 しかし、ディーラー網の再編に加えて、2020年のコロナ感染症ウイルスの世界的な拡大による半導体不足などにより、新車の納車時期が長期化していることもあり、新車、中古車と分けている状態ではないのが正直なところだ。

 今回は、新車ディーラーが中古車販売を手がけるようになった理由を検証し、クルマの買い方について考えみたいと思う。

■物事の起こりは、クルマの所有期間長期化

 かつて新車が登場するフルモデルチェンジのサイクルは4年だった。そのため、新車が登場するとクルマを買い換えるユーザーが多く、メーカー系販売店には下取り車が流入し、優良な中古車が発生していた。

 しかし、クルマの買取というシステムが主流となり、人気の高い車種では下取り価格と買い取り価格では数十万変わるという現象が起こり、ユーザーは1円でも高く手放し、次のクルマの資金に多く回そうということで買取へと流れた。

 さらに、クルマの所有期間がどんどんと伸びていて、現在では新車の買い換えは約7.7年まで伸びている。そうなると、優良な中古車は買取店に流れてしまうので、ディーラー系販売店では優良な中古車が枯渇してしまう。

■優良な中古車を手配するための取り組み

 そこで導入されたのが、残価設定ローンや個人リースという買い方だ。

 特に個人リースは、3年~5年という一定期間のメンテナンス&車検費用そして税金などがすべてパッケージ化し、それを月々一定の金額を支払うという所有の仕方。税金などの突然の大きな出費もなく、車検費用も含まれているので必要なのは消耗品代くらいだ。

 リース期間が終われば、多くの人がまた新しいクルマへ乗り換えることが多い。したがってしっかりとメンテナンスされたクルマが数年後自分たちの元へと帰ってくるというまるで「鮭の遡上」のようなシステムなのだ。

 トヨタが展開しているKINTOなどのサブスクリプションのサービスは、手軽にクルマに乗れるというユーザーメリットもあるが、それ以上に自動車メーカーは数年後、自分たちの元に優良な中古車が戻ってくるという大きなメリットもあるのだ。

サブスクリプションのサービスは、自動車メーカーにとっては「優良な中古車が戻ってくる」という大きなメリットがある
サブスクリプションのサービスは、自動車メーカーにとっては「優良な中古車が戻ってくる」という大きなメリットがある

 メンテナンスもしっかりとされた中古車なので、メーカーとしても保証を付けても大きなリスクにならない。そういったサイクルによって自動車メーカーの中古車ビジネスは成立しているのだ。

■半導体不足はこの動きにあまり関係ない

 そもそも、新車の販売が好調でないと中古車市場はシュリンクしてしまう。しかし、現在は世界的な半導体不足などによって新車の生産に影響が出て、納車までの期間が伸びているのはご存じのとおりだ。

 新車ディーラーは、いくら受注台数が多くてもユーザーにクルマを納車できなければ利益を出すことはできない。したがって現在の半導体不足による新車の納車遅延は新車ディーラーにとっては大きなダメージとなっているのだ。

 しかし、新車ディーラーが中古車販売も行うというのは、決して半導体不足による新車販売の停滞をフォローする策ではない。すでにこういった動きは始まっていたのだ。

■中古車に対する各社の取り組み

 例えば、2019年8月にホンダは国内四輪販売店に新店舗デザイン「Honda Dealer Concept 2.0」を導入し、2020年6月から展開した。

 同時に2019年11月より、認定中古車の基準を厳格化し、「Honda 認定中古車 U-Select(ユーセレクト)」というブランドを立ち上げた。この新ブランドは、ホンダ車であること、修復歴がないこと、第三者機関による車両状態証明書を発行されているという3つの条件をクリアした優良な中古車のみを扱っている。

 また、認定中古車制度の刷新に伴い、中古車販売チャネル名称である「オートテラス」を「Honda Cars ・U-Select(ホンダカーズ・ユーセレクト)」と変更し、店舗イメージカラーを新車ディーラーのHonda Carsと同じ白を基調としたものに統一されている。

ホンダの中古車販売チャネルは現在、「Honda Cars ・U-Select(ホンダカーズ・ユーセレクト)」となり、新車ディーラーと同じようなお店デザインに変更されている
ホンダの中古車販売チャネルは現在、「Honda Cars ・U-Select(ホンダカーズ・ユーセレクト)」となり、新車ディーラーと同じようなお店デザインに変更されている

 そしてトヨタは2020年4月に、ブランドを刷新し、中古車事業の強化を行っている。これまで、「T-Value(ティーバリュー)」という中古車ブランドを「トヨタ認定中古車」に統一した。

■ディーラーから顧客の足を遠のかせないために

 ホンダやトヨタのこの流れは、これまで新車ディーラーと中古車販売店にあった高い垣根を取り払い、ホンダそしてトヨタが扱う安心、安全の中古車というイメージを前面に押し出したのだ。

 中古車の購入を検討しているユーザーは、ディーラー車の品質は高いけれど価格も高いと敬遠する人が多いが、新車を購入しに来た人ならば、品質が高く保証も充実していて、新車より割安な中古車に対してそれほどの不満はないはず。このようにこれまで離脱してしまったユーザーを中古車によって獲得できるということになるのだ。

 どうしても新車じゃないとダメ、という人は無理だが、見積もりを取ったらちょっと予算オーバーしてしまった人に、中古車ならば買えますよと言えれば、ユーザーの裾野が広がるので販売店としてもメリットは大きいはずだ。

■中古車なら人気車種にもすぐ乗れる

 最後に、国産SUVのなかでも人気の高いトヨタハリアーで新車、中古車、メーカー系中古車のどこで購入するのがベストなのかを調べてみた。調べたグレードはトヨタハリアー2.0 Zレザーパッケージ。ボディカラーはブラックだ。

 新車は車両本体価格393万円で、諸費用込みの乗り出し価格が423万6700円だ。しかし、メーカーのホームページによると2021年12月10日現在納車までの期間は5~6カ月となっている。

 一方、メーカー系中古車は、2021年式、走行距離0.2万kmで、支払総額436.3万円。また、一般の中古車販売店では2021年式、走行距離3kmという中古車が支払総額409万円となっていた。

 価格面では一般の中古車販売店が安くなっている一方、人気車ということもあり、メーカー系中古車は新車の乗り出し価格よりも高めとなった。新車が5~6カ月待ちということを考えるとこういった中古車をすぐに手に入れるほうが得策かもしれない。

 こういった事例を取りこぼさないように、新車ディーラーでも中古車販売に力を注ぐようになっているのだ。


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