■高級ブランドに偏りがちな輸入車EV
経済産業省が公表している補助対象見込み車両のリストには、当然日系ブランドより電動車でリードしている欧米系ブランドも入っているが、その顔ぶれを見ると、アウディ、BMW、メルセデスベンツ、ポルシェ、ジャガー、テスラ、ランドローバーなど、いわゆる高級ブランドモデルがほとんどとなっている。
もちろん国内導入されていないだけで、本国などでは電動車をラインナップしているブランドもあるが、EUやイギリスは2035年に原則的に内燃機関車の販売を禁止するとしているが、それでも電動車をより積極的にラインナップしているのは高級ブランド車ばかりといった状態になっている。
アメリカではテスラが富裕層の日常生活の“足”としてよく売れている。結果的には、まず所得に余裕のある富裕層から電動車に乗ってもらうというのが、世界の車両電動化の流れとなっているように見える。
世界一電動車の普及している中国でも、政府が指定する新エネルギー車(新能源車/PHEV、BEV、FCEV)の車名別販売ランキングでは、最近でこそ、“マイクロBEV”とも呼べる安価な中国民族系メーカーのBEVも目立つが、それでも欧米高級ブランドのBEVやPHEVがランキング上位に車名を連ねている。
そもそも、欧州当たりでも本気で10数年後あたりに内燃機関車の新車販売全廃を考えているのかと疑問に思える現状となっているのである。
それでも補助金を手厚くすれば、世界のように“金持ち頼み”ともいえる車両電動化の普及とは異なるアプローチで普及が進むかといえばそういうわけではない。政府の長期的な視野での、自動車だけでなない総合的で確固たるエネルギー転換政策の策定。そして充電インフラ整備の加速化なども必要だろう。
現状では既存の集合住宅に新たに充電施設を設置するには、ほぼ全世帯の同意が必要となる“高い壁”が存在する。これをクリアして充電施設を設置したケースもあるが、これは“奇跡”や“力わざの勝利”ともいわれている。
そのため現状では、今後のラインナップ増もあるがPHEVが日本国内で“折衷案”として、販売面でも注目されていくのではないかともいわれている。前出の三菱系ディーラーセールスマンは、
「エクリプスクロスならば、40から50kmは電気のみで走り続けてくれるので、生活圏内での日常的使用では電気だけで十分走ってくれます。電気を使い果たせば、そのあとは“プリウス的”に使えますので、BEVよりは現実的なクリーンエネルギー車といえるでしょう」と説明してくれた。
自動車業界は100年に1度ともされる変革期にきている。そこには、いままでの内燃機関車ありきの付随するインフラや、車検制度など周辺環境整備も山積みのようにあると思うのだが、行政の対応は相変わらず“民間丸投げ”のように見えてならない。
■日本車・輸入車ともにラインナップ拡充は急務
そして、そもそも論として欧米系ブランドだけでなく、日系ブランドでも魅力的なクリーンエネルギー車のラインナップを増やすことも急務といえるだろう。
9つもブランドがあっても、簡単に数えられるぐらいしかクリーンエネルギー車がないなかで、2035年以降も日系ブランドではラインナップの充実しているHEV(ハイブリッド車)の販売が継続できるのなら、せいぜい内燃機関車からHEVへの乗り換えが進むだけだろう。
EUやイギリスでは2035年にHEVすら販売禁止にするとしている。それなのに、仮に欧州などでHEVすら販売禁止となる電動化が進んだとして、HEVも継続販売可能として「日本も電動化頑張っています」とアナウンスすれば、世界で笑われるだけのようにも見える。
しかし、欧州の車両電動化が進まず、2035年以降も内燃機関車の新車販売が継続されれば話は別。日本政府がそこまで見越しているようには見えない。
消費者はクリーンエネルギー車に後ろ向きでも興味がないわけでもなく、むしろ注目しており、関心は極めて高いようにも見える。しかしHEVを除けば電動車の選択肢は少なく、補助金を使っても高額イメージは拭えないし、政府の対応への懐疑的な見方もあり、“様子見”が続いている。
そのなかで、日本ではクリーンエネルギー車導入のメリットで、“災害時の非常電源に使える”ということを声高に叫んでいる。今回の補助金についても補助金交付に先立ち、「地域で災害などが生じた場合、可能な範囲で給電活動などに協力してもらう可能性がある」としている。
このフレーズを見ると、行政が災害時対応を民間人にも担わせようとしているようにも見え、筆者などはかなり違和感を覚える。
そもそもBEVでは、ガソリン車のような“満タン”という概念はないとも聞いている。蓄電量を空っぽにしてから充電すれば時間もかかるので、出先に充電施設があれば短時間滞在でも充電を行うと言った、“つぎ足し”を心掛けたほうがいいという話もある。
そもそも、いま町なかを走っているガソリン車がいつもガソリン満タンで走っている車両はそう多くないはず。それなのに、“災害時には非常電源として”と期待するなら、BEVはいつでも満充電にしていなければならないとも受け取れる。
諸外国では、化石燃料から電気になることでの燃料コスト減よりも、オイル交換などが不要となるので、維持していくなかでのメンテナンスコスト削減ということもアピールしている。消費者に直接的にメリットとなることを訴求しなければ普及はなかなか進まないだろう。
気候変動対策とか、災害時対応など、夢も希望もないことばかりを普及促進理由にしていては消費者もなかなか触手が動かないだろう。
内燃機関車にない面白さや、維持管理コストの削減など、わかりやすいアプローチをしないと、「補助金出せば国民はこぞってクリーンエネルギー車を買ってくれるので世界に追いつく」とだけ考えているうちは、なかなか世界のトレンドに追いつくことはできないだろう。
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