フィット苦戦はまさかの同士討ち!? 販売好調アクアとのギャップはどこで埋まるのか

■フィットが苦戦してアクアが好調な理由

最近の流行に反してさっぱりとしたプレーンな顔立ちのフィット。好き嫌いの分かれるところだ
最近の流行に反してさっぱりとしたプレーンな顔立ちのフィット。好き嫌いの分かれるところだ

 まず商品自体では、現行型になって内外装を大きく変えたことが影響した。前述の通り視界は向上したが、フロントマスクは個性を強めた。水平基調のボディサイドも、デザインの見栄えとしては躍動感が乏しい。従来型に比べると、総じてキレの良さが薄れた。

 内装も2本スポークのステアリングホイールは、一般的に見慣れない。グレード構成としては、SUV風のクロスオーバーを加えたが、3ナンバーサイズに拡大される。スポーティなRSは、ネスというグレードに変わって選びにくい。

 販売面では、フィットの需要や販売力がN-BOXに奪われた。N-BOXは2021年に1か月平均で1万5745台を届け出しており、国内で新車として売られたホンダ車の33%を占めた。

 しかもN-BOXの売れ筋価格帯は150~200万円だから、フィットの170~240万円(ノーマルエンジン車に限れば170~210万円)と重複する。N-BOXは空間効率を追求して天井も高いため、後席も広く快適で、格納すれば自転車なども積める大容量の荷室になる。加えて軽自動車だから税金も安い。

 つまりフィットの本当の競争相手は、アクアやノートではなく、身内のN-BOXだ。先ほどフィットの欠点として挙げた外観も、N-BOXならカスタムを中心に立派に見える。内装も上質だ。安全装備の充実度も、フィットと比べてほとんど見劣りしない。

天井が高く空間効率の良さが魅力のホンダ N-BOX。フィットからN-BOXに乗り換えるユーザーも多いという
天井が高く空間効率の良さが魅力のホンダ N-BOX。フィットからN-BOXに乗り換えるユーザーも多いという

 従って「軽自動車よりもコンパクトカーが上級」という見方をしなければ、多くのユーザーにとって、フィットよりもN-BOXが魅力的と受け取られる。

 販売店からは「N-BOXは数年後に売却する時の査定額も高いので、フィットからN-BOXに乗り替えるお客様が多い」という話も聞かれる。

 例えばN-BOXカスタムL(178万9800円)と、フィット1.3ホーム(176万7700円)で残価設定ローンを組んだ場合、価格はフィットが安いのに、月々の返済額は、N-BOXを上まわってしまう。

 N-BOXは中古車市場でも人気があり、高値で売却できるため、残価設定ローンの残価(契約終了時の残存価値)も高いのだ。

 残価設定ローンでは、残価を除いた金額を分割返済するから、残価の高いN-BOXは返済額を安くできる。今は残価設定ローンの利用者が増えているから、フィットはますます不利になってしまう。

■アクアの好調にはほかにも理由が

ヤリスの人気を奪う形で売れ行きを伸ばすアクア。フィットとN-BOXとはちょうど逆の関係になる
ヤリスの人気を奪う形で売れ行きを伸ばすアクア。フィットとN-BOXとはちょうど逆の関係になる

 一方、販売の好調なアクアには、フィットとは逆のことが当てはまる。アクアZ(240万円)と、同じトヨタのヤリスハイブリッドZ(アクアZと同じくアルミホイールをオプション装着すると240万6500円)を比べると、価格はほぼ同額だ。

 ところが3年間の残価設定ローンを組んで月々の返済額を比べると、アクアZは5万400円で、ヤリスハイブリッドZは5万1400円になる。前述の残価の違いにより、アクアZは返済額が安い。

 しかも商品力を比べても、アクアはヤリスハイブリッドよりも魅力がある。アクアは内装が上質で、後席の足元空間も広い。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先には、握りコブシ2つ弱が収まる。ヤリスの1つ少々に比べて余裕がある。

 動力性能も異なる。アクアはバイポーラ型ニッケル水素電池を使うことで、ヤリスハイブリッドに比べると、実用回転域の駆動力が上まわる。登坂路に差し掛かり、アクセルペダルを踏み増した時の駆動力にも差が生じる。

 乗り心地は、ヤリスハイブリッドは14インチタイヤ装着車を中心に硬めだが、アクアはショックアブソーバーの造りも上質で、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も長いから柔軟性が伴う。

トヨタ ヤリス。コンパクトさではアクアを上回るが、それ故の乗り心地の硬さや後席の狭さ、さらには割安感でアクアに一歩遅れをとる
トヨタ ヤリス。コンパクトさではアクアを上回るが、それ故の乗り心地の硬さや後席の狭さ、さらには割安感でアクアに一歩遅れをとる

 このようにアクアとヤリスハイブリッドを比べると、居住性、内装の質、動力性能、乗り心地まで、さまざまな機能が上まわる。しかも価格はアクアが割安で、残価設定ローンでは月々の返済額まで安くなるから、アクアは売れ行きを伸ばした。

 また先代アクアは2011年に燃費の優れた5ナンバー車として発売されて人気車となった。2013年と2015年には、国内販売の総合1位になっている。2014年も小型/普通車の1位だったから、今でも先代型の保有台数が多い。新型への乗り替え需要も豊富だから、現行型も売れ行きを伸ばした。

 このように現行アクアには、商品力、販売面ともに、魅力的な要素が多い。

 それならフィットe:HEVとアクアを比べたらどうなるか。視界、運転のしやすさ、加速の滑らかさ、後席の居住性、荷室の使い勝手では、フィットe:HEVが勝っている。内装の質感、動力性能、走行安定性ではアクアが魅力的だ。

 つまりファミリーカーとしてバランスの取れた機能を重視するならフィットe:HEV、ドライバーの満足度を追求するならアクアになる。そして機能と価格のバランスを比べると、フィットe:HEVが少し買い得だ。

 このように両車の実力は互角に近いが、バランスの取れた機能と価格の割安度により、勝敗を決めるならフィットe:HEVが勝る。

 特にフィットのホームは、ノーマルエンジン車を含めて買い得なグレードだから、実用的なコンパクトカーを選ぶ時には購入の候補に入る。販売店の試乗車をアクアと乗り比べて検討したい。

 アクアとフィットe:HEVの比較からも分かる通り、クルマの実力は売れ行きだけでは判断できない。候補車種を挙げて、実際に乗ってみることが大切だ。

【画像ギャラリー】宿命のライバル!? ホンダ フィット&トヨタ アクアの不振&好調の理由を探る(10枚)画像ギャラリー

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