■全社挙げての総力戦でブランド価値を向上
(TEXT/池田直渡)
マツダのブランドイメージ向上には、きちんとした計画に基づいた細かい戦略がある。SKYACTIVの開発とともに「ブランド価値向上」を経営目標に掲げた取り組みを続けてきた。
まず「ブランドイメージ」とは何かを定義しておかないといけない。抽象的な言葉で難しそうだが、実は指標はわりと簡単で「下取り価格」そのものなのだ。
ブランドイメージが低いとどうなるかを考えてみるのが手っ取り早い。
「商品・サービスに魅力がない」→「新車が正価で売れない」→「在庫がダブつくか生産設備の稼働率が落ちる」→「苦しくなって値引き販売」→「新車の値引き影響で中古車価格が崩壊」→「下取り価格が悪化」→「ユーザーの買い換え原資の不足で新車販売が悪化」→最初にもどる─という負のループにハマる。
マツダ地獄と言われた頃はまさにこういう状況だった。
では、その元凶とも言える値引きはどうして発生するのか? 言うまでもないが、モデルチェンジやマイナーチェンジの時に最も値引きが発生しやすい。間もなく旧型になるモデルを売るには値引きが必要になる。
かと言ってモデルチェンジをせずにいつまでも旧型車両を売ればこれも当然値引きで勝負するしかなくなるのだ。
となれば、商品鮮度を落とさないように頻繁に改良をするしかない。マツダは2015年から、マイナーチェンジを廃止。毎年年次改良を加えることにした。その代わり見た目でハッキリわかるような外観の変更を取りやめたのである。
見た目が変わると、いわゆる前期型、後期型で中古車価格に差が出る。従来は外観を変えることで新車効果を期待し、販売のテコ入れのために外観変更を行ってきたのだが、マツダは「お客様のためにならない」と明言して、この「メーカー都合のマイナーチェンジ」をすっぱりやめた。
左上の図を見てもらえばわかるように、こうして頻繁に商品改良を加え、大きな変化ポイントを設けないことで、モデルライフを通したクルマの価値を安定させたのである。
●おそらく最初はやせ我慢だった
マツダのブランド価値販売戦略は、全社を挙げた総力戦である。新車販売では、残価設定クレジットで3年後の買い取り価格55%を保証し、さらに市場の動向によっては、それ以上で買い戻す。
おそらく最初はかなりのやせ我慢だったのだろう。業界標準は保証なしの50%なのだが、それを5%上回る額で保証して、市場価格の高値維持を徹底した。
ブランド価値が崩れればマツダにとっては大損になるが、メーカー自身が信じられない将来価値を客に信じろというほうが無理だ。2年前に取材した時、この55%保証の例外となったのは、極端な過走行のDE型デミオ1例だけ。実績ベースの買取平均価格は実に65%に達したというからスゴい。
高値で下取れば、顧客の買い換え原資は増える。実例として、CX-5のモデルチェンジでは、旧型から新型への買い換えで、より高いグレードへの移行が多く見られたという。
もちろん高く下取りするためには、ほかにも仕掛けが必要だ。それがメンテナンスパックだ。パックの適用期間の点検整備には基本費用が発生しない。例外となるのは、タイヤとブレーキパッドの摩耗による消耗品交換くらいだ。
もちろん主目的はクルマの状態を良好に保つことだが、費用負担のないメンテナンスパックで、整備記録簿がしっかり記載されることで、やがて下取った時に筋のよい中古車になる。
また、中古車は地域によって売価が変わる。東京・名古屋・大阪などの大都市では供給は過剰になりがちで、売値が厳しいが、地方では供給不足で比較的高値が付く。マツダはWebで在庫の共有化を図ることで、より高値が付くエリアに中古車を厚く供給するシステムを作り上げたのである。
もうひとつ面白いのは保険だ。マツダは「スカイプラス」という自動車保険を販売しているが、年一度最大6万円(免責2万円)までのボディリペアが付いてくる。期限内に使わないと権利が消えるので、ユーザーは、そのタイミングでちょっとした擦り傷を直す気になる。
当然査定のマイナスの回避になるし、街を走るマツダ車の外観がキレイなことはブランドイメージの向上にもつながる。ユーザー自身が価値を維持しやすい環境を整えることによって「クルマの価値」を維持しているのだ。
さて、もうひとつポイントを加えておこう。クルマがよくなり、下取り価格が維持されたとしても、販売店店舗のイメージが悪ければ、ブランド価値は向上しない。だからマツダは、店舗のデザインを一新した。いわゆる「黒マツダ」である。商品イメージにふさわしい店舗は重要なファクターである。
●マツダに関わるすべての人を幸せに
マツダがこれだけ広範囲な戦略を立てて遂行することができた理由はどこにあるのだろう? それについて、マツダの戦略を説明してくれた役員はこう言った。
「具体的には、お客様にとっても、販売会社にとっても、マツダ本社の人間に関しても、マツダに関わるすべての人が幸せになるためにどうしたらいいのか、をずっと考えてきたんです。そういう活動で、みんながひとつになれたのかなぁと思っております。
それによって各部門が目指しているゴールがひとつになって、保険をやっている部門、中古車部門、サービス部門、そういういろんな部門が、本当にマツダのリセールバリューを高めるために、それぞれの領域で何をやっていくのかを考えてくれました。
もちろんトップダウンで方向性は示しましたが、みんなが『そうだよね。今までのマツダから変わらないとダメだよね』と、一人ひとりがそこを理解して動いてくれたということなんです」。
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