■ノア&ヴォクシーを敬遠するユーザーを狙うステップワゴン
ヴォクシー&ノアは、このように各種の装備やメカニズムを刷新させて機能と性能を高めたが、開発と生産に要する投資も増える。それを可能にしたのは、ヴォクシー&ノアの保有台数が多く、前述のフロントマスクや装備の差別化もあって大量に販売できる見通しが立ったからだ。
ここはステップワゴンを売るホンダにとって、羨ましいところだろう。ステップワゴンはヴォクシー&ノアほど大量な販売は見込めないから、先代型と比べて進化の度合いも小さい。
ヴォクシー&ノアとの競争を避けるため、フロントマスクもミニバンユーザーの70%が好むオラオラ系ではなく、30%のシンプルな顔立ちを選んだ。
ただしステップワゴンが勝る機能もある。それは車内の広さと居住性だ。身長170cmの大人6名が乗車して、2列目に座る乗員の膝先空間を握りコブシ2つ分に調節した場合、3列目に座る乗員の膝先空間は、ヴォクシー&ノアは握りコブシ1つ半だがステップワゴンなら2つ収まる。
3列目の座り心地は両車とも改善されたが、ステップワゴンは座面の厚みを20mm増して、座り心地を積極的に向上させた。
さらにステップワゴンは現行型でヴォクシー&ノア以上に外観の水平基調を強め、床と座面の間隔も先代型に比べて2列目シートで10mm、3列目では20mm高めた。
1/2列目の背もたれ形状も工夫され、2/3列目に座る乗員の視覚的な圧迫感を抑えている。ステップワゴンの開発者は「クルマ酔いの研究も行い、その成果を反映させた」という。
2列目のロングスライドや左右方向のスライド機能も含めて(ヴォクシー&ノアもロングスライドは可能)、ステップワゴンは居住性に配慮した。フロントマスクのデザインも含めて、リラックスできる乗車感覚を大切にしている。
■フロントマスクだけではないステップワゴンの『薄味感』
ただしそれにしても、ステップワゴンはヴォクシー&ノアに比べると、さまざまな点でインパクトが弱い。この根幹にはホンダの国内販売状況も絡む。
2021年に国内で新車として売られたホンダ車の33%をN-BOXが占めて、N-WGNなどを加えた軽自動車比率は53%に達した。コンパクトなフィット/フリード/ヴェゼルも加えると84%だから、ステップワゴン、シビック、CR-Vなどは、すべて残りの16%に含まれてしまう。
これではステップワゴンに多額の投資はできないが、ミドルサイズ以上のホンダ車では、売れ行きを最も伸ばせる車種だ。
車名の認知度も高く、子供の頃に初代や2代目ステップワゴンを使った世代が、今は子育てをしている。親子の繋がりを視野に入れた売り方など、工夫を凝らせば、販売台数を伸ばす余地も生じる。
今後のバリエーション展開も大切で、エアとスパーダに加えて、SUV風のクロスターやスポーティなモデューロXも欲しい。
これらのテコ入れを怠ると、ステップワゴンは次のマイナーチェンジで、フロントマスクをオラオラ系に変えることになってしまう。近年のステップワゴンは、大人しい顔で登場して、売れ行きが伸び悩み、派手なデザインに変更するパターンの繰り返しだ。
ステップワゴンは優れた商品だから、大切に販売して、今の顔立ちを最後まで変えないで欲しい。これからの時代に必要なのは、ステップワゴンのような穏やかな世界観を備えたクルマだと思う。
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