本誌『ベストカー』にて、毎号技術系の最新情報や気になる話題をお届けしている「近未来新聞」。
今回は新興EVで販売体系に訪れる変化、エコな電気を船で運ぶ企業の挑戦、コネクテッドカーをめぐる通信業界と自動車業界の軋轢などをお届けします!
※本稿は2022年1月のものです
文/角田伸幸、写真/ベストカー編集部 ほか、撮影/三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY ほか
初出:『ベストカー』2022年2月10日号『近未来新聞』より
■ブリヂストン・オートバックス…新興EVでディーラー網に地殻変動???
米フィスカーや中国NIOなど、EVで世界進出を狙う新興企業が現われているが、彼らが直面するのが各国での販売やアフターサービスの問題。自動車ビジネスはこれなしでは成り立たないが、ディーラー網を張り巡らせるには膨大なコストも必要なだけに、頭の痛い問題だ。
そこで、代わりにサービス網を引き受けましょうという企業が現われてきた。
たとえばブリヂストン。同社は昨年暮れに大規模な事業転換を発表したが、近年は中国製タイヤの追い上げもあって新たな収益源がほしいところ。
そこで先のフィスカーと提携して、アメリカにある同社の販売拠点を、フィスカー車の販売やアフターサービスの基地として利用することにした。フィスカーにとっても、全米のサービスネットワークをほとんど無償で手にできるわけだから、恩恵は大きいに違いない。
この動きは日本でも起きている。たとえばオートバックスは、先々号で紹介したHWエレクトロ社の小型EVトラック「エレモ」の保守や修理を、主要店舗で請け負うことを検討中らしい。
オートバックスはピットエリアで行うサービスの拡大に力を入れているから、将来的には複数のメーカーのサービスを請け負うことも視野にあるようだ。
新興メーカーにとってサービス網の問題は不可避。今後は思わぬところでクルマが買えるようになるかも?
■エコな電気を船で運ぶ新興企業の壮大な挑戦
2022年は電気自動車の普及も進み、電気の需要がますます高まりそう。
この需要を狙って、さまざまな企業が新たなビジネスを模索しているわけだが、元ZOZOの取締役も務めた伊藤正裕氏が壮大な事業を始めた。洋上風力が発電した電気を陸上に運ぶ「電力運搬船」の建造だ。
「えー、電線で繋げばいいんじゃないの」と考える方が多いだろう。筆者もその一人だったが、そこにはしっかりした理由があった。
まず海底を這わせる電線のコストが意外と高いことだ。洋上風力の発電設備は、景観や騒音を懸念して沖合10~30km程度に作られることが多いのだが、そこまで電線を敷く相場は1kmあたり1億~2億円といわれ、バカにならない費用になる。
船という存在が生む新たな価値も見逃せない。電力運搬船は電池をバッテリーに蓄えて運ぶわけだから、それ自体が巨大な電源となる。たとえば災害などによって電力供給が途絶えた地域があれば、その沿岸に出向き、非常用電源として稼働させることが可能になるわけだ。
伊藤氏が起こした「パワーエックス」という企業は、愛媛の今治造船と提携して2025年までに初号船「パワーアーク100」を竣工させるという。
その船には20フィートコンテナのようなバカでかい蓄電池を100個積み、222MWhの電力を運搬可能とする。これは一般家庭2万2000世帯の1日分の電力に相当するそうだ。
電力運搬船は洋上風力にとどまらず、たとえば海外で買った電力の運搬などにも使える。今後はアフリカやオーストラリアなどで、太陽光から作ったグリーン電力を輸出するビジネスも始まりそうだから、そこでの活躍も期待できるはずだ。
「クリーンな電気を運んできて使う」。今年はそんな動きが始まりそうだ。
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