岸田政権の3%賃上げ要求に応えるのか? 日本クルマ界2022春闘「自動車メーカーの給料が上がれば日本経済は上向く……!?」

■トヨタは早くも満額回答の決定か!?

 トヨタは社内向けメディア「トヨタイムズ」でその労使との交渉の様子をつぶさに報じているが、それによると、豊田章男社長は初回交渉の場でいきなり「賃金・賞与について会社と組合の間に認識の相違はないことを、このタイミングではっきりお伝えしたい」と発言したという。

初回の労使交渉で事実上の満額回答を表明したトヨタの豊田章男社長。「賃金・賞与について会社と組合の間に認識の相違はない、この発言により良い風が吹くことを期待する」と発言した
初回の労使交渉で事実上の満額回答を表明したトヨタの豊田章男社長。「賃金・賞与について会社と組合の間に認識の相違はない、この発言により良い風が吹くことを期待する」と発言した

 事実上の満額回答である。春闘は3回の交渉を経て最終的な回答が示されるのが通例で、一部のメディアもこの判断を「早くも異例の満額回答」とアピールした。

 前年度のトヨタ組合員(管理職を除く一般社員)の平均賃金は858万円だったが、これによって自動車業界としては初めて900万円を突破する公算が強い。

 トヨタのこの満額回答には目算もある。岸田政権が唱える「成長と分配の好循環」では大企業の場合、賃上げが4%を超えると法人税で25%の控除を得られる。労組の要求がその4%をギリギリ攻める水準だったこと、賃上げの大半が将来の状況が変動した時に調節しやすいボーナスであることなどから、水面下では事前に労使間で相当の調整が行われていたであろうことがうかがえる。

■賃上げが景気にプラスに作用して好循環を期待する豊田社長

 とはいえ、低い賃金となる工場労働者の比率が高い自動車業界でヒラ社員の平均年収が900万円というのはずいぶん威勢のいい話だ。豊田社長は「この発言で550万人の自動車に関わるすべての働く仲間たちにいい風が吹くことを期待したい」とも語っている。

 550万人とは自動車メーカーと部品メーカー、鉄鋼業などの資材メーカー、さらに非製造業では自動車販売にガソリンスタンド、さらに人手不足や長時間労働の問題を抱える運送や整備など、クルマに関わる業種すべてを合算したもので、日本の労働人口の約1割を占めるという。そこの景気がよくなれば日本経済への波及効果も大きいというのが豊田社長の思いでもある。

 つまり、賃上げが景気にプラスに作用するには、所得が増えた分が消費に回る必要がある。しかしながら「給料が増えても将来が不安だから貯金しよう」というのでは元も子もなく、いわゆる「好循環」は期待できない。

■自動車業界の賃上げだけで景気の好循環は生まれるのか

 「若者のクルマ離れ」と言われて久しい日本の自動車市場だが、今やクルマを買わない風潮は若者にかぎらず全世代に広がっている。車検業務の外郭団体である日本検査登録情報協会の調べによれば、新車登録されてから抹消されるまでの平均使用年数は13.87年。さらに一時的な登録抹消を差し引いた廃車までの平均寿命は15年を超えているそうだ。

 懐具合がさみしいからクルマを買わないのは当然だと思われるかもしれない。ところが、トヨタをはじめ給与水準が我が国の平均よりずっと高い自動車メーカーの社員でも、マイカーを持たない社員も少なくない。

 取材の際に興味本位でどんなクルマに乗っているのかを聞くと、ペーパードライバーの若手社員のほか、マイカーを所有している 「高給取り」の管理職クラスでも古い年式のクルマを所有していることが多いのには驚かされる。

 「正直、我々が積極的に買わないのだから新車販売が頭打ちなのは致し方ないと思っています。日々の仕事でも質素倹約を叩き込まれているからなのか、性能もよく、まだ走る愛車を手放すのはもったいないと考える風潮が強く、自動車税が上がる新車登録後の13年が買い換える目安とも……」(大手自動車メーカー幹部)

 仮に給料やボーナスが上がってもそれが貯金に回ってしまうのでは、賃上げによる景気浮揚は文字どおり絵に描いた餅。社会保障の充実と安定化が前提なのは当然だが、「金は天下の回りもの」であり、まずは使うためにあるという意識改革を図っていくことも必要だろう。

収入が上がっても将来や老後の不安から貯金に回ってしまう。景気の好循環を作るにはまず日本社会に蔓延する将来への不安を取り除く必要がある(guy2men@AdobeStock)
収入が上がっても将来や老後の不安から貯金に回ってしまう。景気の好循環を作るにはまず日本社会に蔓延する将来への不安を取り除く必要がある(guy2men@AdobeStock)

 しかも、波及効果という観点から自動車メーカーが従業員に気前よく賃金を払うだけでは限定的なものになる。例えば、自動車メーカーの社員ですらクルマを買っていないということは、身内の自動車ディーラーにとっては大きな痛手。さらにネックとなっているのは個人消費だけでなく、企業間取引にも問題がある。

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