■クルマのコスト削減で下請け企業まで行き届かない利潤
自動車メーカーは部品や素材メーカーから部材を購入して組み立てる商売だが、その相手企業に対してはコストダウン要求を繰り返してきた。その要求は二次、三次の下請メーカーに連鎖していく仕組みになっているが、つい先日トヨタが国内工場すべてを稼働停止にしたことで話題になったサイバーセキュリティ対策も不完全な末端では賃金を3%引き上げる余力のないところも多く、親企業との格差は開くばかりである。
そこにお金を行き渡らせるには、自動車メーカーが下請けの会社に対し、より多くの代金を支払うしか方法がない。が、そこにはグローバルで展開されているコスト競争という現実も横たわっており、一時的な部品価格の上乗せでは焼け石に水でもある。
日本の自動車メーカーは日本がまだ新興国だった高度経済成長時代にコスト低減で大きな利益を上げてきたという成功体験があり、これからもそれで儲けようという意識が強い。が、50年も続けてきたビジネスモデルでこれからも乗り切ろうというのは無理があるだろう。
トヨタにかぎった話ではないが、1台あたりの付加価値の高さを追求するようなモノづくりのポリシーを転換し、部品メーカーもより付加価値の高い、言い換えれば高く売れるものが主流になるようにしていかなければ、末端まで潤うということは難しい。
■自動車メーカーの賃上げだけでは日本経済はよくならない
岸田政権の「成長と分配の好循環」は衰退する日本経済を活性化させるためのほんの小さなトリガーにすぎない。50年ぶりの水準まで低下した円安の恩恵を受けて自動車メーカーの労働組合が、この水準での満額回答で喜んでいるようでは社会に横たわっている経済停滞の原因をかえって見えにくくし、社会改革を遅らせることにもつながりかねない。
社会を変革する技術のトップランナーを目指す前に、最終的な目標を付加価値の絶対的な増大に置き、完成車、部品、関連業界などのヒエラルキーを壊してほかを犠牲にせず、巨額の利益を得られるようになってこそ、ようやく自動車業界が日本経済にいい波及効果をもたらすことができるようになるというものだ。残念だが、現時点ではまだ、その意欲、覚悟が自動車メーカーにあるとは思えない。
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