■中国市場重視で何が変わったか?
総合すると、ラティオのカッコ悪さの源泉は、そのセンスのなさにあった。前型に当たるティーダラティオは、どこかひょうきんでセンスのあるデザインだったが、あれがなぜこんな形になってしまったのか。
このカッコ悪さは、ズバリ、中国市場対策の賜物だった。ラティオの中心市場は中国と北米。中国では「サニー」、北米では「バーサ」として売られた。開発段階では、中国と北米のデザイン部門がコンペを行ったが、デキではなく市場規模で中国デザインに軍配が上がった。ラティオの生産台数の約半分が中国向けだったゆえである。
2012年と言えば10年前。わずか10年前だが、当時の中国人のデザインに対する好みは、先進国のソレとは明らかに異なっていた。基本的に重要なのは目立つこと。じゃ立派に見えればいいのかというとそうでもなく、我々には、彼らが何を求めているのかサッパリわからなかった。結局のところ「センスが違うんだよね」ということになってしまう(その後超速で進歩し、現在は大きな違いはなくなった)。
当時、国産メーカーで、中国人の好みに最も適切に(?)対応したのが日産だった。日産は中国市場ではずっと健闘しており、日系メーカーとしてはトヨタ・ホンダとほぼ互角の戦いを続けている。その要因のひとつは、中国対策のデザインにあった。日産はいち早く中国にデザインスタジオを置き、中国人スタッフに中国のセンスでデザインさせ、それが成功したのだ。
その代表が2代目・3代目ティアナ。中国では記録的な大ヒットとなった。ラティオのデザインは、その小型版だったと言えばわかりやすい。初代ティアナは、日本では「モダンリビング」を謳い文句にそれなりにヒットしたが、2代目以降は、中国市場シフトデザインも足を引っ張って、日本ではサッパリ売れなくなった。
■クセになる魅力がマニア心をくすぐる!?
ラティオのデザインについては、もうひとつの主力市場・北米でも、ジャーナリストに酷評された。しかし案に相違して販売はそこそこ好調に推移し、「アメリカで最廉価クラスのセダンを買う層は、カッコなんかどうでもいい」という実態が明らかになったという。ガックリ。
いま改めてラティオのデザインをまじまじと見つめると、「どこがそんなに悪いの?」という、哲学的な疑念が生じてくる。そして、クセになるような魅力も感じる。しかしここはやっぱり、ラティオはウルトラスーパーカッコ悪かった……と断言したい!
ラティオの名誉のために付け加えると、デザイン以外の性能は意外と高かった。1.2Lエンジンは低速トルクがあり、副変速機付きCVTもいい仕事をするから、実用性能はまったく問題なし。乗り心地はふわっとしていて良好。静粛性も高かった。特筆すべきは室内とトランクの広さで、「なんじゃこりゃ!?」というくらい広かった。どっちもメルセデス・ベンツ Sクラスに肉薄していたと言えば、その凄さがわかるだろう。
中国向けデザインと実用性能の高さ、そして広大な居住空間により、ラティオならぬ中国サニーは十分なヒットモデルとなった。が、ここ日本では珍車となり、私のように特殊なツボを持つマニアは、街で見かけたら思わず走って追いかけたくなってしまう。ある意味、忘れえぬクルマである。
【画像ギャラリー】ラティオのスタイルは本当にカッコ悪いのか? 写真で見極める!(6枚)画像ギャラリー
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