ソニーとホンダの意外な共通点とはなにか
ソニーは、戦後にトランジスタラジオという新分野を切り開き、以後もウォークマンやアイボなど、独創的な商品開発に取り組んできた歴史がある。ホンダは承知のとおり、やはり戦後に自転車にガソリンエンジンを取り付けることで2輪事業へ参入し、2輪と4輪を含め海外レースへの挑戦をいち早く進めながら商品を発展させ、アシモや小型ジェット機など独自の取り組みでも知られる。
両社に共通するのは、事業の安定的な展開に止まらない、新たな価値に挑戦する姿だ。それが熱烈な愛好者を生み出している。
ソニーのVISION-S 01と02は、走行可能であってもあくまで概念を提示した1台の試作車である。これに対しホンダは、量産市販のホンダeを2020年に発売している。
ソニーのVISION-S 01は流麗な4ドアセダンであり、02はクロスオーバー的なSUV(スポーツ多目的車)だ。ホンダeは、都市型の小型4ドアハッチバック車である。クルマの形態はそれぞれまったく違うが、共通性もあり、それはダッシュボードに横一列に並べられた液晶画面にみられる。
一見、同じ手法に思えるが、実車を見て感じるのは、ソニーのほうはあたかも劇場や居間で映像や音楽を楽しむような空間の雰囲気をたたえるのに対し、ホンダeは扱う画像が娯楽性を含むとしても、あくまでクルマのダッシュボードの印象であることだ。同様の液晶画面の配列でも、ソニーとホンダではそれを見る車内の人間に与える雰囲気が異なる。
良し悪しの話ではない。しかしこの点こそが、両社があえて合弁会社を設立し、次世代の価値観を見据えたEVを開発しようとする意欲の背景であろう。そうであるなら、2022年設立される合弁会社によって企画し、開発されるEVは、VISION-S 01や02、あるいはホンダeとは別の姿や装備で現れることになるに違いない。
年内の合弁会社設立を踏まえ、2025年に新EVを発売するとなると、企画や開発の期間、そして生産への準備は実質3年あるかないかという短期間になる。家庭電化製品や通信機器に比べ、新車開発には何年もの時間を要することが知られている。
したがってそれほど時間的猶予はない。だが、ホンダは以前より短期間で成果を出すことに慣れている。背景にあるのは、F1などモータースポーツで鍛えた迅速な対処だ。また一度の失敗は許す気風があり、ただしその失敗は一刻も早く挽回することを求め続けてきた。そうしたホンダらしい仕事の取り組み姿勢が、新EVの製造と発売の後ろ盾になるだろう。
ホンダが目指すEV戦略とソニーから得られるものとは?
さて、では三部社長が2040年にEVメーカーになると表明したホンダのEV戦略はどうなっていくのだろうか。三部社長はソニーとの記者会見で次のように語っている。
「ホンダには独自のEV戦略があり、合弁会社と別のEVへの取り組みがある。たとえば米国でのゼネラルモーターズ(GM)との提携がある」
EVに限らずエンジン車でも、ハッチバック、セダン、ステーションワゴン、ミニバン、SUV、そして軽自動車といった用途に応じた車種があり、それぞれに見合う性能や機能が求められている。
この先18年かけてEVを充実していくなかで、EVといえども車体の大小や用途に適した車種展開は総合自動車メーカーとして不可欠であり、取り組むべき内容に従来と大きく変わることはないといえる。したがって高付加価値を前提とした合弁会社のEVとは一線を画する面があるだろう。
ただし、EV時代へ向けて従来と異なる側面もある。自動運転や共同利用という、次世代の移動の仕方への挑戦と摸索だ。所有という価値観がなくならないにしても、自動運転と共同利用が進展すれば、おのずとクルマのあり姿も集約されていく可能性は高い。
また、自動運転が実用化すれば、乗員はすべて同乗者の立場となるので、では車内でどのように過ごすかとの課題が生まれる。仕事など用事を済ませる時間の有効活用法もあるだろうし、取り立ててすることがなければ映像や音楽などを楽しみながら快適に目的地を目指したいといった要望が高まる可能性はある。そうなると、ソニーの持つ資源が大いに役立つはずだ。
そればかりでなく、自動運転に不可欠なセンサー技術で、ソニーはCMOSイメージセンサーという高い技術を誇る。これは、超高速で動くものを撮影したいというカメラ技術から生まれた。
ソニーは、部品メーカーとしても自動車産業と深く関わることで、事業の柱にしていこうと考えている。それには広く自動車メーカーとの関係を築く必要があるいっぽうで、それまでの間は、ソニーの技術を存分に生かしてくれる自動車メーカーとの協業も必要になる。この点で、世界に名の知られたホンダはうってつけの自動車メーカーだろう。
両社の出会いは、まだ2021年の夏ごろであったという。だが、いざ顔を会わせてみれば、互いのやりたいことを成就するうえで最良の相手になったのだ。
2025年に新EVが発売された暁には、従来からの両社の熱烈な愛好者がこぞって手に入れたいと殺到するのではないか。そのことは、単に両社に利益をもたらすだけでなく、EVの普及促進にも大きな力となっていく期待がある。
【画像ギャラリー】ソニーのEVコンセプトカー「VISION-S」とホンダのEV「ホンダe」をギャラリーでチェック!!(16枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方