2050年のカーボンニュートラルにむけて、国内外問わずさまざまな自動車メーカーから電気自動車(以下、EV)の開発と販売が行われている。
2022年中には、トヨタ、日産、三菱などの国内メーカーがEVの販売を予定している。いっぽう、電力供給不足、インフラ整備等でまだ多くの問題を抱えている。そのなかでも、注目視されている問題のひとつが、EV普及後の雇用である。
この問題に対して、日産のEV事業をひも解きつつ、雇用を維持していくことについて考察していく。21世紀“電気主力の時代”の今後はどうなっていくのか?
文/御堀直嗣、写真/NISSAN
【画像ギャラリー】 EV先駆者である日産初のクロスオーバーEV「アリア」を画像でチェック(12枚)画像ギャラリーEV普及による雇用減は机上の数合わせ? 国産EV先駆者に動きあり!!
電気自動車(EV)が普及することによって、使われる部品点数がエンジン車に比べ減ったり、別の部品へ替わったりすることにより、雇用が大きく失われるとの報道があとを絶たない。しかしそれらの論調は、いずれも机上の数あわせで、労働者や消費者をただ不安に陥れるばかりだ。
たしかにEVは、エンジン車や、ましてエンジンにモーター駆動を加えたハイブリッド車(HV)に比べ、部品点数が大きく減る。3分の2に減るとの情報もあるが、部品といってもボルトやバルブ1本まで数えるのか、ある程度機能部品ごとの数でいうのか、厳密な比較は難しい。とはいえ、部品が減ることに変わりはない。
これによって、エンジン車に関わる部品の製造や、その組み立て作業などが減り、携わっていた従業員の雇用が失われるとの想定で試算し、懸念が語られている。
ここにきて、日産自動車は8年後の2030年に米国市場で販売する新車の40%をEVとし、ほかにも電動車比率を高めていくに際して、従業員の教育を行う計画であることを発表した。そのための投資も行う。こうして雇用維持につなげようというのだ。
リーフの登場、そして日産が電気自動車の価値を高めた偉業とは?
そもそも、何十年にわたってエンジン車やHVを製造してきた自動車メーカーでは、はじめからEVの専門家であった例はまれだ。多くのEV開発者は、エンジン車開発の経験しか持たないなかで自らEVを学び、創造力を働かせ、開発に取り組んできた。
日産は、EV開発に止まらず、NECと共同でラミネート型リチウムイオンバッテリーを新開発し、オートモーティブ・エナジー・サプライ(AESC)というバッテリー会社を立ち上げ、生産工場まで建設した。
さらに、EV後のリチウムイオンバッテリーを有効活用する道筋を探るため、フォー・アール・エナジーという会社を初代リーフ発売前に立ち上げ、創業した。今日ではEV後のバッテリー再利用の事業をはじめている。
またリーフの発売当初は、充電拠点が充分でなく、それを補うため全国の販売店へ急速充電器の設置を行った。これにより、40km圏内に充電拠点があるという安心を、所有者や利用者に与えた。それに際し急速充電器が高価であったため、日産は自ら開発して原価を半分に引き下げた。
急速充電器だけでなく、普通充電でも安全を確保するため、充電ケーブルにコントロールボックスと呼ぶ機能を設け、EVとの交信によって安全を確認してから200Vの電流を流すようにした。
ほかにも、通信機を全車に搭載し、スマートフォンを通じて充電状況の確認や、充電中に冷暖房を作動しはじめることにより走行用バッテリーの電力をできるだけ減らさないようにし、快適に出かけられるようにした。
また通信機があることにより、携帯電話を経由せずオペレーターと無線交信できるようになり、ナビゲーション検索で探しきれなかったときには最寄りの充電拠点をオペレーターが案内し、そこまでの道順をオペレーターが遠隔操作で設定するようにもした。
日産は、単にリーフというEVを開発するだけでなく、総合的にEV価値を高める新たな事業を展開したのである。クルマ一台の部品点数でEVはエンジン車に比べ大きく仕事が減るとしても、消費者に快適にEVを利用してもらおうと思えば、これだけの新たな機能や仕組みづくりが必要で、そこに新事業や雇用が創出された。そこまでを総合的に含めてなお、雇用が心配だというのだろうか?
とはいえ、これまでエンジンや変速機、あるいは燃料噴射装置や点火装置、また排出ガス浄化の触媒などを製造してきた下請け企業は、甚大な損失や、雇用の喪失にあうのではないかとの不安もあるだろう。
もちろん、新たな発想や投資が必要なことはいうまでもない。だが、日本のものづくりの根幹は、職人の英知を尽くした匠の技であり、エンジンなど既存の製品がただ存続することではないはずだ。もちろん、継続的に同じ部品を作り続けられるなら、容易に収入を得ることができる。楽に生きられるといえる。だが、職人的匠の技や知見を持つ製造業者であるなら、その技や知見は、クルマ以外の分野でも重宝されるだろう。
たとえば、ロケットや航空機、あるいは医療機器など、精密な部品づくりは不可欠だ。将来の自動運転や共同利用などを視野に入れていけば、高度で安価なセンサーの開発や、不具合のないプログラムの構築など電気・電子分野を含め、さらなる発展も期待される。
ある燃料系の企業は、将来を見越して制御技術分野を開拓し、それによって雇用を守った。世界的に点火プラグを展開してきた企業は、持続可能な社会づくりの分野を広げ多角事業に乗り出している。
未来は誰も正確に予測できない。しかし、現在の社会状況を自ら精査し、認識し、求められるものは何か、そこでいきる技術は何かを見定めていけば、方向性は見えてくるのではないか。現状把握や未来の予測を自社の都合だけで見れば、懸念としか映らないだろう。
しかし気候変動の課題やEVの模索は、30年前の1990年代初頭からはじまっている。少なくとも、10数年前には三菱i‐MiEVと日産リーフは発売されたのだ。
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