■仮説3:ユーザーの若返りを目指したのがよくなかった?
現行クラウンの開発者は「先代モデルを購入するお客様の平均年齢が65〜70歳に達した。そこを現行型では40〜50歳に抑えたい」と語った。
要するに外観をファストバック風に変更したり、乗り心地が硬めになっても走行安定性を向上させた理由は、ユーザーの若返りにあった。
欧州セダンの高人気も影響を与えている。先代クラウンが販売されていた2015年に、メルセデスベンツCクラスは、セダンを中心に約2万1000台を登録した。
先代クラウンは2015年に約3万8000台を登録したからCクラスの1.8倍だったが、それ以前に比べると販売格差が縮まった。
クラウンに対する欧州セダンの追い上げが激しく、これに対抗してクラウンが欧州車に近づき、結果的に若返りに至った事情もある。
クラウンの若返りは悪いことではないが、現行型は従来型からの変化が大きすぎた。急激な若返りも販売低迷の一因だ。
■仮説4:そもそもクラウンの賞味期限はすでに切れているのか?
セダンは1950年代から、ミニバンや軽自動車が売れ筋カテゴリーとして定着する2000年頃まで、40年以上にわたり日本車の主役であり続けた。
しかもセダンは居住空間の後部に背の低い独立したトランクスペースを備えるから、天井の高いミニバン/コンパクトカー/軽自動車に比べて、空間効率では不利になる。
ボディサイズが同程度なら、セダンの車内は、背の高いミニバンなどに比べて明らかに狭い。つまり近年のセダンは、カテゴリーの古さと効率の低さにより、賞味期限が切れて売れゆきを下げた。
そのなかでもクラウンは、初代モデルを1955年に発売したセダンの老舗だ。登場後67年を経過するので、賞味期限も切れやすい。
■仮説5:もしかして現行クラウンは失敗などしていない?
セダンの賞味期限が切れた結果、クラウンの売れゆきも下がったとすれば、「現行クラウンは失敗などしていない」という見方も成り立つ。
現行クラウンの売れ筋グレードは、2.5Lハイブリッドを搭載するRS系で、価格は500万〜550万円だ。日本車では高価格の部類に入るが、現行クラウンは2021年に2万1411台(1カ月平均で1784台)を登録している。
カローラセダン(ツーリングなどを除く)は、1万1770台(1カ月平均で981台)だから、クラウンが約1万台上回る。クラウンがカローラセダンよりも多く売られていると考えれば立派な快挙だろう。
そしてクラウンの過去を振り返ると、好景気の真っ最中だった1990年には、20万8016台を登録した。この時に比べると、2021年の売れゆきは10%だから、現行クラウンは大失敗作だ。
しかし2021年の国内販売台数は1990年の57%に留まり、セダンの市場規模はさらに縮小した。そこまで考えると、現行クラウンの2021年における2万1411台は決して少なくない。
このように現行クラウンの販売評価は、過去の成功体験に基づくのか、あるいは国内販売とセダンの現状を踏まえるかで大幅に変わる。クラウンは、成功と失敗の判断が最も難しいクルマでもあるわけだ。
■結論:15代目クラウンへの逆風は強かった
現行クラウンの販売低迷には複数の理由がある。先に述べた外観、乗り心地、走り以外に、内装も影響を与えた。発売当初はエアコンスイッチを含めてインパネの中央に液晶パネルが上下に並び、年齢層によっては操作しにくく感じた。その後にエアコンスイッチは、一般的な形状に戻されている。
グレード名では、1974年に登場した5代目から使われるロイヤルサルーンを廃止した。上級シリーズのマジェスタも選べない。従来のマジェスタを所有するユーザーにとって、現行型は物足りない印象だ。
これらの事情により、販売店からは「今まで新型クラウンが登場すると必ず買い替えたお客様が、現行型では慎重になっている」という話が聞かれる。
現行アルファードの高人気も、クラウンの販売に影響を与えた。トヨペット店からは「企業のトップや政治家がアルファードを使う様子が報道され、イメージが高まってクラウンから乗り換えるお客様も増えた」という話が聞かれた。
2020年5月にはトヨタの全店が全車を扱う販売体制が全国的に採用され、クラウンの顧客が販売店を変えずにアルファードやハリアーに乗り換えられるようになった。
クラウンの開発者は「クラウンは、お客様、専売店のトヨタ店、トヨタが一緒に育てたクルマだと考えている」と語っており、新しい販売体制もクラウンにはマイナスに作用した。
それでもセダンを諦めるのは早い。現行型では若返りが裏目に出たが、今後補正すればいい。
セダンは重心が低く、後席とトランクスペースの間に骨格があるからボディ剛性も高めやすい。静粛性でも有利だ。クラウンの上質感はセダンボディによるところが大きく、SUVではまったく違うクルマになってしまう。
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