■ハイテク化や安全装備で現代のクルマは高価になった
今日、自動車マーケットの様相は30年前とはまったく様変わりしている。軽自動車、Aセグメントミニ(トヨタのルーミー、スズキソリオなど)、Bセグメントサブコンパクト(トヨタヤリス、日産3代目ノートなど)の3カテゴリーが新車販売の圧倒的主流だ。
1990年と今日で、年収の額面自体に大きな違いはない。にもかかわらず、なぜこれほどまでにクルマの消費志向が変わってしまったのだろうか。
大前提として、クルマの値段が今と昔ではまったく異なるということは押さえておく必要がある。現代のクルマは環境規制対応や安全性向上のため、ハイテクの塊となっている。軽自動車ですらホンダN-WGNのようにステアリング制御ありのADAS(先進運転支援システム)を標準装備するモデルが出てきているほど。
エンジンも漏れなく可変バルブタイミング機構付きのDOHC。普通車ではコストアップの圧倒的大物、ハイブリッド機構を持つものが増えている。
また、全車種に共通する変化としてボディやシャシー(サスペンションやブレーキ)の性能が生半可なスポーツカーの存在意義を失わせしめるほどに向上したという点も見逃せない。
■海外での売れ筋主流のクルマはCセグメントコンパクト
これらの性能、機能向上を伴う変化はメーカーのコスト削減努力を超えたもので、大幅な価格アップをもたらした。先般、スズキが軽ベーシックのアルトをフルモデルチェンジしたが、お値段は47万円という衝撃価格を引っ提げて登場した初代モデルのおよそ2倍。これは一例で、ほぼすべてのモデルがハイテク化前に比べて1.5倍から2倍、あるいはそれ以上に高騰している。
クルマの価格上昇で買う側がそれまでより格下のクルマに乗り替えるというのは世界的に起こっている現象ではある。それをマイルドに表現した言葉が「ダウンサイザー」というヤツだ。
が、日本のダウンサイザーぶりは突出している。欧州市場でも北米市場でも販売のボリュームが大きいのは依然としてCセグメントコンパクト(VWゴルフなど)以上のクラスであって、シティカー扱いされるミニやサブコンパクトに消費が偏るには至っていない。
■世界の経済成長に取り残された国、日本
日本がそうなっているのはもう、四半世紀に渡ってデフレが続いてきたことにより、所得が上がっていないことが圧倒的な第一要因と考えざるを得ない。
本来、デフレが続けば円の価値は相対的に1ドル=80円、70円……と上がるはずなのだが、それでは国際競争力が維持できないということで量的緩和を続けたことで、為替レートは本来よりかなり円安になっている。
1990年の425万円に対して2020年が435万円というのは、日本円の数字としては横ばいだが、世界経済との対比では大暴落なのだ。
■社会保障費や税金が増えて可処分所得は減っている
額面年収が上がっていないばかりではない。一方、社会保障費や税金は確実に上昇している。
それに加えて大きな重圧になっているのが教育費。義務教育や高校では公立学校の教育力が落ちているのに伴って子女を私立学校に通わせるケースが増えているが、その場合、国公立大学に近いくらいのコストがかかる。
その国公立大学の授業料は年額53万5800円と、バブル期の1.8~2.2倍に高騰している。かつて平均的なサラリーマンにとってクルマは家の次に高い買い物と言われていたが、今や子女を学校に出すコストのほうがクルマよりはるかに高いというありさまである。
税金、生きていくのに必要なベースコスト、そして教育費などを引いていくと、額面は同じ400万円前半でも自由に使える可処分所得は大幅に下がっている。
それでいてクルマの値段が上がっているのだから、上等なクルマなど買っている場合ではない。サブコンパクトクラスのクルマを購入、維持しているだけでも現代の日本では押しも押されもしない中流なのだ。
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