ようやくまん延防止等重点措置が解除されたが、さまざまな業界がコロナ禍の影響で大きなダメージを負っている。
そんななか、飲み会が大幅に減り、流しでもお客を捕まえるのが難しいとドライバーが漏らすほど苦境なのが、タクシー業界だ。
今回はコロナ流行から約2年が経った現在のタクシー業界の苦しい現状と、直面している危機などについて、現役タクシードライバーでもある森吉雄一氏にレポートしてもらう。
文/森吉雄一
写真/Adobe stock(Wirestock@Adobe stock)
■精神的にも追いつめられる…… タクシードライバーの苦しい現状
本当に自分はこの仕事を続けて家族を養っていけるのか?
いきなりネガティブな書き出しで恐縮だが、コロナ禍となったこの2年間、まるで空気を掴むかのように手応えのない営業を続けてきた。タクシードライバーなら誰もが何度も転職を考えただろうし、実際に失った仲間も少なくはない。
自分が所属するタクシー会社は比較的大きな会社だが、およそ3割近いドライバーが去っていき、数十名の長期欠勤者が出ている。欠勤の理由は病気や怪我などさまざまだが、間違いなく増えているのは「適応障害」いわゆるうつ病だ。
実際自分も今後や支払いのことを考えると眠れなくなり精神科のお世話になったひとりだ。精神科の先生に自分の仕事はタクシードライバーということを告げると「ああ〜、今運転手で通院されている方がものすごく多いんですよ」という。
本当かどうかはわからないが、なかには小さなタクシー会社で給料が払えないからうつ病の診断書を書いてもらってしばらく傷病手当で何とかしのいで欲しいと言われて病院に来た人もいるんだとか。
僕らタクシードライバーたるもの並みの精神力では長く走り続けることはできない。20時間という長い労働時間や売り上げに追われる日々、絶対に間違えられないルート、常にある事故や違反のリスク、酔っ払いの対応。
それこそお客さんからのクレームや罵声さえも営業所に帰ったら笑い話にできるほどじゃないと務まらない(まれに右から左に抜けていくだけの人もいるのだが……)。
そんな精神力を持ってしても耐えきれないというのがコロナ禍の現状だ。昼間はまだ何とかなる。少ないながらもお客さんを見つけることができた。ところが、飲食店が閉店した夜の時間帯になるとあっという間に人が消えてしまい大量の空車だけが残された。駅のタクシー乗り場にもクルマが溢れタクシーを着けておく場所もなかった。
同じ営業所で東京駅をメインに営業している先輩ドライバーから聞いた話だが、最初の緊急事態宣言が出た時、東京駅のタクシー乗り場に終電前に何とか入れたものの朝まで出ることができず、ひとりも乗せることなくいつの間にか寝てしまい明るくなって目を覚ましたら同じように寝てしまっているタクシーがほかにもポツポツと数台取り残されていたなどというエピソードもある。
流しで営業してみても、自分の前にも後ろにも10台ぐらいの空車タクシーが走っている状況。「えっ? こんな所に?」タクシー乗り場でも何でもないただの交差点で客待ちしているクルマもいた。
逆にこのなかでお客さんを乗せられるほうが事故のようなものだ。数時間走り続けてやっと見つけたお客さんはワンメーター410円。もちろんお客さんに罪はないし、こんな状況のなかでもタクシーを利用してもらえるのは本当にありがたい。
だけどこれではとてもモチベーションを高く保つことができない。コロナ前と比べて信号の先頭を争うタクシー同士のバトルも少なくなってきたように思う。どこを見ても空車だらけで、どこかあきらめというか負けることに慣れてきたのかも知れない。
コロナ感染者数が減るとお客さんが増え、特に2021年の年末の忘年会シーズンはコロナ前を思い出せるほどの盛り上がりで「このままイケるんじゃないか?」と売上も坂を登り始めたと思ったら、まん延防止等重点措置(以下 まん防)で一気にどん底まで落とされるという同じことの繰り返し。
それでも3月から4月にかけての歓送迎会、お花見シーズンは都内で1万人前後の感染者が続くなかでもお客さんは増えていて営業所の売上平均も大幅にアップしてきている。
いや、おそらく単純にお客さんが増えたというよりはタクシー自体が減ったことも影響しているのだろう。各タクシー会社とも国からの休業補償でドライバーの出勤日数を減らすなどして負担を軽減している。
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