売れていなくても、メーカーにとって必要な車がいくつか存在する。それは日本の市場にとって不可欠な車種でもある。
こうした車を分類すると、まずは優れた機能を備えるのに、メーカーや販売会社のアピール不足で売れ行きが低迷しているパターンがあげられる。
その筆頭でもあるトヨタのポルテ&スペイドから、どういった部分が優れていて、今後何が必要なのかを解説。各車とも全盛期は一定の人気を持っていただけに、価格の見直しや改良など、ちょっとしたテコ入れが人気復活の鍵になる可能性もある。
文:渡辺陽一郎/写真:編集部
低床&ワイドドアで高齢者にも優しいポルテ/スペイド
ポルテ&スペイドは全長を4m以下の5ナンバーコンパクトで、ボディスタイルは左右非対称。
左側の1枚の電動スライドドアが特徴だが、後席の乗降性は良くない。荷室は後席の背もたれを前側に倒すと拡大できるが、広げた荷室の床に段差が生じる。
だからポルテ/スペイドは、どのように使えば良いのか分かりにくく、売れ行きも伸び悩む。発売直後はスペイドが月3500台前後、ポルテも2500台前後売れたが、今は400~500台規模。2016年11月にトヨタがルーミー/タンクを加えたことも、販売を下降させる原因となった。
それでもポルテ&スペイドには、2つのメリットがある。
まずは助手席の乗降性と快適性が高いことだ。スライドドア部分の床面地上高は300mmで、この数値は、高齢者が足を無理なく持ち上げられる限界値とされる。ヴォクシーやステップワゴンなど低床ミニバンでも360~390mm。ポルテ/スペイドの助手席部分は、相当な低床設計になっている。
スライドドアの開口幅は1020mmだから、ヴォクシーの2列目で測った805mmに比べるとかなり幅広い。
助手席の足元空間もきわめて広く、福祉車両のような優しさを与えた。その代わり後席の乗降性は割り切っている。
荷室の使い勝手にも特徴がある。後席は背もたれを前側に倒すのではなく、座面を持ち上げ、助手席を前方にスライドさせると、車内の中央に積載スペースができ、工夫次第でいろいろな使い方を楽しめる。
ただし、助手席を前側に寄せて積載空間にすると、ドライバーの左脇まで荷物が迫ってくる。衝突時の加害性には注意したい。
今後の対策は安全性を高めて、ヴォクシーZSのようなエアロパーツを装着した売れ筋路線のグレードやハイブリッドも加えたい。
ポルテ&スペイドの車内は、安全性を改善すべきだが、注目すべき工夫も多い。このまま埋もれさせるのは惜しい車だ。
ジムニーにヒント?三菱の象徴として真価問われるパジェロ
ポルテ&スペイドと同様、商品の特徴が理解されにくい車種にパジェロがある。1991年発売の2代目はヒットしたが、1990年代の中盤以降は、RAV4、CR-Vなど前輪駆動をベースにしたシティ派SUVが台頭。それに伴ってパジェロは人気を下げた。
不人気になった原因として、シティ派SUVに比べるとボディが大きくて価格も高く、運転感覚には重さが感じられたことがあった。
その代わり駆動力を高められる副変速機を備えた4WD、耐久性の優れたシャシーと足まわりによって悪路走破力が高いが、日本では悪路といっても雪道程度が主。パジェロの性能は宝の持ち腐れになってしまう。
結果、販売は低迷し、現行型は発売から約12年を経過したから、ますます売れ行きが落ち込んでいる。
しかし、パジェロは、第二次大戦直後にノックダウン生産を開始した三菱ジープの伝統を受け継ぐ。トヨタのクラウンに相当する三菱の基幹車種だ。
そして悪路走破力が抜群に高い。3.2Lのクリーンディーゼルターボも、実用回転域の駆動力が優れ、悪路に適した性能を発揮する。
人気回復の手段は、新型ジムニーと同様、初代モデルの考え方に戻ることだ。初代パジェロの3ドアは、新型ジムニーに似たシンプルで機能的な美しさによって人気を高めた。
今になって思い返すと、パジェロは代替わりごとに、コンセプトが曖昧になっていった。初代は多くの人達に4WDの楽しさ、カッコ良さを味わって欲しい気持ちをストレートに表現したが、次第に高級に見せたい意図が強まって肥大化している。
今後のパジェロに求められるのも、プロに向けた実用車感覚を取り戻すことだ。新型ジムニーがなぜ人気を得たのか、パジェロの商品企画担当者はしっかりと研究すべきだ。
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